閑話 《鴉樽》案内係
閑話 《鴉樽》案内係
《鴉樽》へ新しい運び屋が来た日。
何故かログが案内役にされた。
「何で俺なんだよ」
「暇そうだから」
主の即答だった。
ログは不満そうに煙草を咥える。
「俺にも仕事あるんだけど」
「下働き」
一階から常連の声。
酒場爆笑。
ログが顔をしかめる。
「お前ら絶対面白がってるだろ」
「今更だな!」
新入り運び屋は少し緊張した顔で立っていた。
まだ若い。
地下街にも慣れていない。
ログは外套を翻しながら歩き出す。
かなり雰囲気を出していた。
本人だけは。
「いいか」
低い声。
「《鴉樽》は下が酒場」
階段を上がる。
「上が見張り通路と寝台」
さらに奥へ進む。
湿った石壁。
古いガス灯。
「で、奥が水路側だ」
新入りが真面目に頷く。
ログ、 少し気分が良くなる。
「ただし」
壁へ寄りかかる。
煙を細く吐く。
「地下街は道を覚えるんじゃねぇ」
かなり格好つけていた。
本人だけは。
「空気で読む」
ミナが後ろで真顔になる。
「ログ」
「何だ」
「そこ」
「ん?」
ガコン。
床が抜けた。
ログ消える。
数秒後。
下の酒場から。
「っっっだぁぁぁぁぁ!!」
盛大な落下音。
酒場沈黙。
そして次の瞬間。
《鴉樽》大爆笑。
「若造また落ちた!!」
「説明中に落ちるな!!」
「今日は二回目だぞ!!」
下からログの怒鳴り声。
「誰だここ壊したの!!」
主が煙草を咥えたままぼそりと言う。
「壊れてねぇ」
ミナが真顔で新入りを見る。
「今のが地下街」
新入り運び屋は真剣な顔で頷いた。
どうやら信じたらしい。
その頃下では。
床へ半分埋まりながら、 ログが呻いていた。
「……何で毎回俺なんだよ……」
常連の一人が笑いながら酒を置く。
「地下街に愛されてるな若造」
「こんな愛いらねぇ!!」




