第11章 ⑳
レオたちが案内されたのは、王宮の奥にある一室だった。
扉の前には衛兵が立ち、廊下にも数人の騎士が配置されている。
先ほど暗殺未遂があったばかりなのだから、当然だろう。
案内役の衛兵が扉の前で立ち止まった。
「お持ちの物を確認させていただきます」
院長代理が書類の束を差し出す。
古参とレオも、持参した物を一つずつ見せた。
夫人についても同様の確認が行われ、ようやく入室を許された。
室内には、すでに王がいた。
その周囲には護衛が控え、少し離れた場所には王宮の役人らしい男たちが立っている。
そして、部屋の隅に。
「……ログ?」
レオは足を止めた。
ログがいた。
両手を前で縛られ、三人の騎士に囲まれている。
騎士の一人はすぐ隣に立ち、残る二人は少し距離を取って前後を塞いでいた。
逃げようにも逃げられない。
ログはレオに気づくと、片手を上げようとした。
もちろん、上がらなかった。
「おう」
「……何で縛られてるんですか」
「俺が聞きてえよ」
古参が額を押さえた。
「お前、何をした」
「何もしてねえって!」
「静かに」
隣の騎士に注意され、ログは口を閉じた。
レオは何とも言えない顔で、その姿を見つめた。
朝、厨房で別れたときは、普通に樽を運んでいたはずだ。
それが半日も経たないうちに、王の前で両手を縛られている。
いったい何をどうすれば、こんなことになるのか。
「……後で聞きます」
「俺も説明してえよ」
「静かに」
「……はいはい」
ログは不満そうに騎士を見た。
そのやり取りを、王は黙って見ていた。
「そなたたちが、記録院にいた者たちか」
王の言葉に、レオたちは姿勢を正した。
院長代理が一歩前へ出る。
「はい。記録院の院長代理を務めております。本日は、十九年前に発せられた王命に関する記録を確認しておりました」
「十九年前?」
「はい。こちらのレオ殿と、古参の官吏殿、そして夫人より、関連する資料の確認を求められております」
王は三人へ目を向けた。
レオが頭を下げる。
古参もそれに続いた。
夫人が名乗ると、王はわずかに表情を変えた。
「……そなたは、軍の総司令官の妻ではないか」
「はい、陛下」
「なぜ、そなたがここに?」
「夫に関わる記録がございます」
王はしばらく夫人を見つめた。
それから、院長代理へ向き直った。
「まずは話を聞こう」
「ありがとうございます」
院長代理は書類を机の上へ置いた。
「その前に、一点ご報告がございます。こちらの資料は、すべての確認を終えているわけではございません。原本との照合が済んだものと、現在確認中のものが含まれております」
「分かった。区別して説明するように」
「承知いたしました」
レオは、ようやく話が始まることに安堵した。
朝から何度も説明してきた内容だ。
それでも、王の前となれば緊張する。
院長代理が最初の書類を取り上げた。
「十九年前、陛下は軍の研究施設に対し、研究の停止と施設の閉鎖を命じておられます」
王は書類を受け取り、目を通した。
しばらくして、顔を上げる。
「……覚えている」
レオは息を詰めた。
「地下に設けられていた施設の件だな」
「はい」
「あのときは、子供たちが研究に使われていると報告を受けた。調査の結果、施設の運用そのものに問題があると判断し、停止を命じた」
王は書類へ目を戻した。
「その後、閉鎖の報告も受けている」
「はい。十七年前の完了報告が、こちらでございます」
院長代理が次の書類を差し出した。
王はそれを読み、眉を寄せた。
「……これだ」
書類には、研究施設の閉鎖が完了したことが記されていた。
関係する設備の停止。
研究資料の回収。
残された人員の処遇。
必要な措置を終えたとして、軍から提出された報告だった。
「この件は、これで終わったはずだ」
王が言った。
院長代理は答えず、レオへ目を向けた。
レオは一歩前に出た。
「陛下」
「何だ」
「終わっておりません」
王が顔を上げた。
室内が静まり返る。
レオは続けた。
「施設の閉鎖は報告されました。しかし、研究はその後も続けられておりました」
王は手元の書類を見た。
それから、ゆっくりとレオへ視線を戻した。
「……どういうことだ」
レオは頭を下げた。
「そのことを、ご報告に参りました」




