第2章 東側の噂 ➅
地下街の空気が静かだった。
役人見習いは、 《鴉樽》の面々を順番に見る。
主。
ログ。
物陰のミナ。
最後に、 暗い通路の奥へ視線を向けた。
「東側で人が消えてる」
主は煙草を咥えたまま答える。
「地下街じゃ珍しくねぇ」
「珍しくないから放っておくのか」
「役人はそうしてきただろ」
短い沈黙。
役人見習いは言い返せなかった。
ログは壁へ寄りかかったまま、 二人を見る。
空気が重い。
だから口を挟んだ。
「で、アンタ何しに来たんだよ」
役人見習いが視線を向ける。
ログは煙を吐く。
かなり雰囲気を出していた。
本人だけは。
「見習いだろ?」
「……そうだ」
「一人で地下街来るとか馬鹿じゃねぇの」
ミナがぼそりと言う。
「下働きに言われてる」
数秒沈黙。
役人見習いが吹き出した。
主は煙草を押し付けながら、 少しだけ肩を揺らす。
ログは顔をしかめた。
「何で笑うんだよ」
「いや……」
役人見習いはまだ笑いを堪えている。
「地下街ってもっと怖い場所だと思ってた」
一階から常連の声。
「怖ぇぞー!」
「若造以外な!」
酒場爆笑。
ログが階下へ怒鳴る。
「うるせぇ!!」
その隙に、 役人見習いの表情が少し真面目へ戻る。
「……でも、本当に危ない」
通路の空気が少し変わる。
役人見習いは低く続けた。
「最近、表でも人が消えてる」
ログの顔から笑いが消える。
「表でも?」
「孤児。 流れ者。 身寄りの無い奴」
ミナが静かに視線を上げた。
役人見習いは《鴉樽》を見る。
「地下へ流れてる噂がある」
主は何も言わない。
だが、 その沈黙が重かった。
役人見習いは小さく息を吐く。
「だから探ってる」
ログが顔をしかめる。
「正式な役人じゃねぇのに?」
「だからだ」
役人見習いは苦く笑った。
「正式なら止められる」
地下街の水音が響く。
誰もすぐには喋らなかった。
やがて主が低く言う。
「……名前は」
役人見習いが顔を上げる。
主は煙を吐く。
「見習いじゃ呼びづれぇ」
数秒の沈黙。
そして役人見習いは、 少しだけ笑った。
「レオ」
ログが即答する。
「一年下働き」
ミナが吹き出した。
一階からまた爆笑が起きた。




