第2章 東側の噂 ⑤
暗い通路の向こうで、相手は少し黙っていた。
まるで、 どう返していいか分からなくなったみたいに。
ログは壁へ寄りかかったまま煙を吐く。
かなり雰囲気を出していた。
本人だけは。
「……で?」
低い声を作る。
「探し物って何だよ」
通路の向こうの男は、 まだ少し困惑したままだった。
「本当に下働きなのか?」
ミナが後ろで肩を震わせる。
ログは顔をしかめた。
「そこ重要か?」
「いや……」
男は低く咳払いした。
「地下街で初めて聞いた」
「俺も不本意だよ」
その返答で、 相手がまた少し笑う。
地下街の人間にしては、 笑い方が柔らかかった。
ミナが小さく呟く。
「……やっぱり表」
ログも少しだけ同意した。
空気が違う。
地下街の人間は、 こんな風に笑わない。
その時。
階段の方から、 ゆっくり足音が響いた。
地下街の主だった。
煙草。
長い外套。
面倒臭そうな顔。
主は通路の空気を一瞬で読む。
そして、 通路奥の影を見て目を細めた。
「……役人か」
通路が静まる。
男は少し黙り、 やがてゆっくりフードを下ろした。
若い男だった。
地下街の人間より、 ずっと身綺麗な顔。
だが疲れている。
「役人見習いだ」
ログが顔をしかめる。
「見習い?」
「正式じゃない」
「だからこんな所来てんのか」
男は苦笑した。
否定しない。
主は煙を吐く。
「帰れ」
即答だった。
役人見習いは少し困った顔をする。
「……そう言うと思った」
「地下街に首突っ込むな」
「もう突っ込んでる」
短い沈黙。
主の目が細くなる。
役人見習いは静かに続けた。
「最近、人が消えてる」
ログが僅かに眉を寄せる。
役人見習いは《鴉樽》を真っ直ぐ見た。
「東側で何が起きてる?」
地下街の空気が、 また少し重くなった。




