第8章 ⑰
運送管理所を出る。
ログ。
レオ。
古参。
白衣。
常連。
五人になった。
ログが横を見る。
「お前も来るの?」
常連が答える。
「見る」
「まだ見るのかよ」
「暇だから」
「仕事しろよ」
「してる」
「何を」
「見張り」
「誰を」
「お前ら」
さっきと同じだった。
レオが言う。
「放っとけ」
「増えるぞ」
「何が」
「常連」
ログが周りを見る。
今のところ一人しかいない。
「……まあいい」
東部倉庫区へ向かう。
白衣が歩きながら聞いた。
「何を探してるんだ」
「倉庫」
「それは聞いた」
ログが答える。
「十九年前、お前が薬を取りに行った場所」
「だから、それを探してどうする」
レオが横から言った。
「今も物が東側へ流れてる」
「同じ場所とは限らんだろ」
「だから確かめる」
白衣は少し考えた。
「十九年だぞ」
「さっきも聞いた」
「建物がなくなってるかもしれん」
「それも聞いた」
「道も変わってる」
「それは聞いてねぇ」
「今言った」
ログが白衣を見る。
「面倒くせぇな」
「お前に言われたくない」
古参が笑う。
「仲いいな」
二人が同時に見る。
「どこが」
レオが前を向いたまま言った。
「そこ」
東部倉庫区へ入る。
荷車が増えた。
大きな通り。
両側に石造りの倉庫。
人が荷を運んでいる。
白衣の足が少し遅くなる。
ログが気づいた。
「どうした」
「似てる」
「ここ?」
「分からん」
「どっち行った」
「覚えてない」
「思い出せ」
「だから十九年前だ!」
ログが指を差す。
「薬!」
白衣が止まった。
「何だ」
「その時の薬。何だった」
白衣の顔が変わる。
「低温で保存する抽出液だ」
「何に使った」
「反応を見るためだ」
「何の」
「魔力を持つ組織に――」
白衣が止まった。
ログも止まる。
レオが見る。
「どうした?」
白衣が少し黙る。
「……話すと長い」
ログが言った。
「今はいらん」
「お前が聞いたんだろ」
「道を思い出すためだよ」
「なら最後まで聞け」
「後で聞く!」
古参が呟く。
「面倒だな」
白衣が見る。
「水路に落とすぞ」
古参が黙った。
ログが笑う。
「覚えたな」
白衣は通りを見る。
「その液は、長く外に出したくなかった」
「うん」
「だから荷車は使ってない」
レオが聞く。
「歩いた?」
「ああ」
「研究所から?」
「違う」
白衣が首を振る。
「研究所から直接来たんじゃない」
ログが見る。
「じゃあどこから」
「地下から上がった」
全員が止まった。
「どこに?」
「それを思い出してる」
白衣が周囲を見る。
荷車。
倉庫。
道。
人。
「階段があった」
「倉庫の地下?」
「違う」
白衣が眉を寄せる。
「その前だ」
レオが聞いた。
「研究所から、地下を通って来た?」
「そうだ」
白衣は少しずつ思い出している。
「研究所を出て」
「地下の通路を通った」
「途中で上がった」
「そこから歩いた」
ログが聞く。
「どれくらい」
「知らん」
「時間」
「覚えてない」
「何なら覚えてんだよ」
「薬」
「知ってるよ!」
白衣が考える。
「長くは歩いてない」
「何で分かる」
「温度が上がってなかった」
ログが黙る。
レオが笑いそうになる。
「研究基準なんだな」
「それなら覚えてる」
「じゃあ使おう」
レオが通りを見る。
「地下から上がって、薬品の温度が大きく変わらない距離」
「そうなる」
「出口は?」
白衣が目を閉じる。
「暗かった」
「地下だからな」
ログが言う。
「黙ってろ」
レオに止められる。
白衣が続けた。
「狭い階段」
「扉」
「外へ出た」
「朝だった」
「何か見えた?」
白衣が唸る。
「壁」
ログが口を開く。
レオが先に見る。
ログは黙った。
「他には?」
「荷車」
「何台?」
「知らん」
「建物」
「石造り」
「何階?」
「知らん」
「看板」
「見てない」
「印」
「見てない」
古参が言った。
「本当に研究以外見てないんだな」
「必要がない」
「よく責任者になれたな」
白衣が睨む。
「研究はできた」
「そこは疑ってない」
「それ以外を疑うな」
ログが言った。
「全員疑ってるぞ」
「帰るぞ」
「待て待て」
白衣が歩き出そうとする。
常連が前へ回った。
「駄目」
白衣が見る。
「お前は何なんだ」
「見張り」
「何の」
「お前ら」
白衣がログを見る。
「何だ、こいつ」
「俺にも分からん」
レオが地図を広げた。
「十九年前の地下道が残ってるか調べよう」
古参が覗く。
「運送管理所に地下道の記録なんてあるのか?」
「今のはないかもしれない」
「じゃあどうする」
「地上から探す」
白衣が言う。
「出口なら覚えてないぞ」
「出口そのものじゃなくていい」
レオが地図を指す。
「研究所から地下を通って、ここまで来た」
指を東へ動かす。
「地上へ出てからは長く歩いてない」
「たぶんな」
「その後、倉庫で薬品を確認した」
「ああ」
「なら探す範囲は狭くなる」
ログが地図を見る。
「どこまで?」
「白衣が歩いた距離次第」
白衣が嫌そうな顔をする。
「覚えてないと言ってる」
ログが聞く。
「薬、無事だったんだろ」
「無事だった」
「どれくらいなら無事なんだ」
白衣が止まる。
「気温にもよる」
「その日の気温」
「朝だった」
「季節」
白衣が考える。
今までより長かった。
「……冬だ」
レオが顔を上げる。
「覚えてる?」
「抽出液の調整を始めたのが冬だった」
また研究だった。
ログが笑う。
「使えるじゃねぇか」
「何が」
「お前」
「喧嘩売ってるのか」
冬の朝。
地下から出た。
薬品を受け取る倉庫まで歩いた。
温度は問題なかった。
白衣が当時使った抽出液。
その保管条件。
外へ出していられる時間。
白衣が計算する。
「……遠くても、この辺りまでだ」
地図の一角を指した。
ログが見る。
「狭くなった」
倉庫はまだ多い。
だが。
探せない数ではない。
古参が地図を見る。
「地下がある倉庫なら、もっと減る」
レオが頷く。
「建物の記録を見れば分かる」
ログの顔が曇る。
「また役所?」
「嫌なら一軒ずつ地下があるか聞いて回る?」
ログは地図を見る。
倉庫。
倉庫。
倉庫。
「……役所」
「よくできました」
「殴るぞ」
常連が地図を覗いた。
「地下がある倉庫なら知ってる」
四人が見る。
「何で?」
ログが聞いた。
「酒を置いてるところがある」
「酒?」
「地下は涼しいから」
白衣が頷く。
「同じ理由だ」
「どこ」
常連が地図を指した。
一つ。
二つ。
三つ。
「この辺」
ログが指を見る。
そのうち一つ。
見覚えのある区画だった。
レオも気づいた。
古参も黙る。
ダリオ・ベッカー。
二十三年前に死んだ男。
それでも名義が残り。
今も税金が払われ。
エリックが入った倉庫。
ログが地図を指した。
「ここ」
常連が頷く。
「地下がある」
白衣が地図を見る。
「名前じゃ分からん」
ログが立ち上がった。
「なら見に行く」
レオも地図を畳む。
「外からだけだぞ」
「分かってる」
「入るなよ」
「分かってるって」
「扉を壊すなよ」
「何で増えた?」
古参が言う。
「壁も」
ログが振り返る。
「お前は水路な」
五人は歩き出した。
十九年前。
白衣が研究材料を受け取った倉庫。
現在。
役所から出た物資が向かう東側。
そして。
死んだ男の名義で残る。
地下のある倉庫。
まだ同じ場所だとは分からない。
だが。
三つの道が。
一つの区画へ近づいていた。




