第7章 ㉖
ログは街道へ戻った。
荷車の場所では灯りが増えている。
役人達。
常連達。
そして古参。
全員が荷台の周りに集まっていた。
「若造!」
古参が気付く。
「捕まえたか」
「ああ」
ログは答えた。
「二人とも森の中だ」
古参が息を吐く。
「生きてるな」
「多分」
「多分じゃない」
ログは肩を竦めた。
レオが近付く。
「何か聞けたか」
「ああ」
ログは荷車を見る。
「これ囮かもしれねぇ」
空気が変わった。
古参の顔が険しくなる。
「説明しろ」
ログは森で聞いた話を伝える。
護衛。
途中まで。
合流。
古い石橋。
一つずつ。
レオが腕を組む。
「別の荷車か」
「かもしれねぇ」
古参も考える。
記録庫を空にした量だ。
二台で運び切れない可能性もある。
あるいは。
本当に重要な物だけ別にしたか。
「石橋はどこだ」
レオが聞く。
古参が答える。
「東へ少し行った先だ」
「今からなら間に合う」
ログが言う。
古参は頷いた。
今度は反対しない。
反対している時間がなかった。
「荷車はどうする」
役人の一人が聞く。
古参が答える前に。
ログが言った。
「鴉樽」
全員が見る。
「は?」
役人が固まった。
ログは荷台を指差す。
「役所に戻すな」
「何故だ」
「また盗まれる」
役人達が黙る。
反論できなかった。
古参も。
レオも。
主もいないのに。
誰も否定しない。
「中にいるんだろ」
ログが言う。
「だったら駄目だ」
古参は長く息を吐いた。
そして。
「鴉樽へ運べ」
役人達が絶句した。
「酒場ですよ!?」
「知ってる」
「証拠ですよ!?」
「だからだ」
古参の声は低かった。
「今の役所より安全だ」
誰も何も言えなかった。
それが事実だからだ。
常連達だけが喜んでいる。
「任せろ」
「誰も触らせねぇ」
「酒より大事にする」
「それはどうだろうな」
役人が呟いた。
常連が睨んだ。
「失礼だな」
「酒より大事な物なんかあるのか」
「ねぇな」
全員が頷いた。
古参が頭を抱えた。
「不安しかない」
レオが笑う。
「大丈夫だ」
「どこがだ」
「盗まれない」
それだけは確かだった。
主がいる。
医者がいる。
常連がいる。
盗みに来たら。
まず帰れない。
古参は認めるしかなかった。
「行くぞ」
馬へ向かう。
ログも乗る。
レオも続く。
東街道。
さらに先。
古い石橋。
夜は深くなっていた。
月は高い。
風が冷たい。
街道を駆ける音だけが響く。
そして。
石橋が見えた。
古い石造りの橋。
川幅は広い。
周囲に民家はない。
静かだった。
静かすぎた。
ログが馬を止める。
全員も止まる。
古参が周囲を見る。
「遅かったか」
誰もいない。
荷車もない。
人影もない。
レオが橋へ近付く。
その時だった。
「待て」
ログが言った。
レオが止まる。
「何だ」
ログは橋の向こうを見ている。
闇の中。
僅かに。
灯りが揺れた。
一つ。
二つ。
三つ。
増える。
古参の顔が変わった。
「あれは」
誰かいる。
しかも一人や二人じゃない。
灯りはゆっくり動いていた。
まるで。
何かを運んでいるように。
ログが笑った。
「いたな」
今度こそ。
本命だった。




