第7章 ㉔
馬が夜道を駆ける。
石畳を抜け東街道へ出る。
冷たい風が顔を叩いた。
先頭はログだった。
その後ろをレオ。
さらに古参。
常連達は少し遅れる。
「見えるか」
古参が聞く。
「まだだ」
レオが答える。
街道は暗い。
月明かりだけが頼りだった。
遠くには森。
その間を一本の道が伸びている。
荷車二台。
男五人。
出発は日が沈む頃。
追い付けない距離じゃない。
「急げ」
古参が馬を走らせる。
ログは前だけを見ていた。
考えていない。
探している。
獲物を追う獣みたいに。
レオは苦笑した。
「見つけたらどうする」
「止める」
即答だった。
「その後は」
「その時考える」
古参が頭を抱えた。
「本当にお前は」
その時。
ログが手綱を引いた。
馬が止まる。
全員も止まる。
「どうした」
レオが聞く。
ログは街道の先を見ている。
「いた」
古参が目を細めた。
遠く。
街道脇。
黒い影が二つ。
荷車だった。
「本当か」
「見える」
レオも気付いた。
「……ああ」
荷車。
二台。
街道脇に止まっている。
灯りも見える。
誰かいる。
「追い付いたな」
ログが笑った。
古参は剣へ手を掛ける。
「慎重に行け」
「何でだ」
「罠かもしれん」
ログは答えなかった。
もう馬を走らせている。
「待て!」
古参の声が夜へ響く。
当然待たない。
距離が縮まる。
荷車。
人影。
三人。
いや。
二人。
何かがおかしい。
レオの眉が寄る。
「少ないな」
「御者がいねぇ」
ログも気付いた。
荷車の横にいる男は二人だけ。
門番の話と合わない。
そして。
こちらに気付いた男達が走った。
荷車を捨てて。
森の方へ。
「逃げた!」
レオが叫ぶ。
ログは馬から飛び降りた。
地面へ着地する。
そのまま全力で走る。
古参が怒鳴った。
「荷車だ!」
レオが止まる。
振り返る。
確かにそうだった。
人を追うか。
荷物を押さえるか。
両方は無理だ。
古参が叫ぶ。
「若造!」
ログは振り返らない。
森へ消える男達を追う。
レオが息を吐いた。
「行ったな」
「ああ」
古参も諦めた。
今さら止まらない。
「お前はどっちだ」
古参が聞く。
レオは荷車を見る。
そして。
「荷物だ」
頷いた。
古参も同じだった。
二人は荷車へ近付く。
布が掛けられている。
縄で縛られている。
夜風で僅かに揺れた。
古参が短剣を抜く。
縄を切る。
布を掴む。
そして。
一気に引いた。
月明かりが荷台を照らす。
二人が止まった。
積まれていたのは。
木箱だった。
大量の。
木箱。
箱。
箱。
箱。
荷台いっぱいに積まれている。
古参が一つ開ける。
蓋が外れる。
中を見る。
そして。
息を呑んだ。
レオも覗き込む。
言葉を失った。
帳簿。
人事記録。
職員名簿。
異動届。
退職届。
ぎっしりと詰め込まれている。
古参が静かに言った。
「あったな」
レオは箱の中へ手を入れる。
一冊を取り出す。
埃が舞った。
表紙を見る。
そして。
顔が変わる。
「古参」
声が低い。
古参も見る。
その帳簿の表紙。
そこには。
十五年前の日付が記されていた。
二人の間に沈黙が落ちる。
運び出されたのは。
ただの記録ではなかった。
十五年前そのものだった。




