第7章 ㉓
そして。
十五年前の続きも。
古参は帳簿を閉じた。
「どこの門だ」
役人が慌ててページをめくる。
指が止まる。
「東門です」
その瞬間ログが踵を返した。
「行くぞ」
古参が顔を上げる。
「待て」
「嫌だ」
即答だった。
ログはもう歩き出している。
レオも続いた。
「おい!」
古参が怒鳴る。
「話は終わってない!」
ログは振り返らない。
「終わった」
「終わってない!」
「東門だろ」
古参が詰まる。
確かにそうだ。
ログは続ける。
「今追えば追い付く」
「追い付かなかったら」
「その時考える」
古参は額を押さえた。
「お前本当に」
「面倒な奴だな」
「知ってる」
ログは階段を下りていく。
レオが小さく笑った。
「諦めろ」
「お前も止めろ」
「無理だ」
古参は大きく息を吐いた。
そして走り出した。
「待て!」
役人達も慌てて続く。
役所を飛び出す。
夜風が頬を打った。
東門までは遠くない。
人通りもまだ残っている。
屋台。
酒場。
帰宅する人々。
その間を縫うように走る。
「あいつら!」
古参が怒鳴る。
ログとレオはもうかなり前だった。
「若くねぇのに元気だな」
常連の一人が言う。
「若造だからな」
別の常連が答えた。
「四十近いぞ」
「本人には言うな」
「怒る」
東門が見えてきた。
大きな門。
夜警が立っている。
ログが先に飛び込んだ。
門番が驚く。
「何だ!」
「荷車だ」
ログが聞く。
「今日出た奴」
門番が眉を寄せる。
「何の話だ」
レオが追い付く。
古参も。
息を整える暇もなく言った。
「役所だ」
門番の顔色が変わる。
「何かあったのか」
「質問に答えろ」
古参が言った。
「荷車は通ったか」
門番は少し考える。
そして頷いた。
「ああ」
全員が見る。
「二台だ」
「何時だ」
「日が沈む少し前」
古参とレオが顔を見合わせた。
時間は合う。
「誰が乗っていた」
門番は思い出す。
「役所の通行証を持っていた」
「男が三人」
「御者が二人」
「荷台は布で覆われてた」
ログが聞く。
「どっち行った」
門番が街道を指差す。
「東だ」
ログは振り返った。
「行くぞ」
古参が肩を掴む。
「待て」
「何だ」
「馬がいる」
ログが止まる。
古参は門番を見る。
「借りるぞ」
「は?」
「緊急だ」
門番が固まった。
「いや待て」
「手続きは」
古参は懐から身分証を叩き付けた。
「後で書く」
門番が絶句する。
レオも止まった。
「お前がそれやるのか」
古参は答えない。
顔が険しかった。
役所の論理より。
今は時間だった。
常連達が吹き出す。
「言ったな」
「後で書くって言った」
「奇跡だな」
古参が睨む。
「黙れ」
馬が引き出される。
ログが先に飛び乗った。
「行くぞ」
夜の街道へ視線を向ける。
東。
闇の向こう。
まだ遠くない。
そんな気がした。
そして。
東門の門番が最後に思い出したように言う。
「ああ、そうだ」
全員が振り返る。
「何だ」
「荷車の一台」
門番は首を傾げた。
「妙な音がしてた」
古参の目が細くなる。
「音?」
「ああ」
門番は頷いた。
「走るたびに」
少し考える。
そして言った。
「紙が崩れるみたいな音だった」
全員が黙った。
荷物は。
やはり記録だった。




