第7章 ⑬
扉が閉め古参は鍵を掛ける。
それから窓を見る。
廊下側の小窓。
外から中が見えないよう布を下ろした。
ログが椅子へ座る。
「随分警戒するな」
「必要だからな」
古参は机の向こうへ回った。
レオは立ったままだった。
「何を知ってる」
「座れ」
「話せ」
「お前も昔から変わらんな」
レオは黙った。
ログが横から言う。
「座れよ」
「お前に言われたくない」
それでもレオは椅子へ座った。
古参も腰を下ろす。
しばらく誰も口を開かなかった。
やがて古参が息を吐く。
「妹の話」
「最初から聞かせろ」
レオは話した。
家に役人が来たこと。
兄が呼んでいると言われたこと。
役所へ来たこと。
元上司に会ったこと。
そこから記憶がないこと。
目を覚ました時には。
地下の施設にいたこと。
古参は一度も口を挟まなかった。
最後まで聞いて目を閉じる。
「……そうか」
ログが見る。
「心当たりがある顔だな」
古参は目を開けた。
「証拠はない十五年前も今もだ」
レオの眉が寄る。
「何があった」
古参は机へ指を置いた。
「お前の妹が消える少し前」
「一人いたな」
レオが頷く。
元上司を調べていた男。
そして突然いなくなった。
「自主退職」
古参が言う。
「そう処理された」
「処理?」
ログが聞く。
古参は頷いた。
「退職したことになった」
「俺もそう聞いた」
レオが言う。
「ああ」
「俺もだ」
古参は机を見る。
「だが妙だった」
「何が」
「挨拶がない」
レオが黙る。
「荷物も残っていた。机の中もそのまま。前の日まで普通に仕事をしていた男が翌朝いきなり辞めた」
ログが眉を寄せる。
「それで誰も探さなかったのか」
「探した奴はいた」
古参が答える。
「俺もその一人だ」
レオが顔を上げた。
「聞いてないぞ」
「言えるか」
古参の声が低くなる。
「お前は妹を探していた」
「同じ時期に同じ上司の下から」
「もう一人消えた」
部屋が静かになる。
「だから調べた。退職届を見ようとした」
ログが聞く。
「見たのか」
「見てない」
「何でだ」
「無かった」
レオの顔が変わる。
古参は続けた。
「少なくとも俺が探した時にはな」
「それなのに記録上は自主退職」
「上からも」
「本人の意思だ」
「詮索するな」
「それで終わりだった」
ログが椅子へ深く座る。
「怪しすぎるだろ」
「ああ」
「だが」
古参はレオを見る。
「その直後お前の妹が消えた」
レオの拳が握られる。
「俺は一度二つを疑った」
古参が言う。
「だが繋がらなかった」
「片方は役人片方は子供」
「消えた場所も違う」
「理由も分からない」
「それに」
古参が少し黙った。
「お前が元上司を疑っていなかった」
レオは答えない。
当時疑っていなかった。
上司だった。
妹を探している自分へ声を掛けてもきた。
情報が入れば知らせるとも言っていた。
ログがレオを見る。
レオの顔が歪む。
「……あいつ」
立ち上がりかける。
古参が言った。
「座れ」
「今どこにいる」
「知らん」
「調べろ」
「十五年前の俺ならな」
古参はレオを真っ直ぐ見る。
「今なら」
「少し違う」
ログが顔を上げた。
「何が」
古参は扉を見る。
声を落とす。
「あの男の名前を出すと今でも動く奴がいる」
二人とも黙る。
さっき受付で名前を出した時。
止まった手。
減った紙の音。
古参は続けた。
「だからここで話してる」
ログが扉を見る。
「まだいるのか」
「分からん」
古参は首を振った。
「誰がそうなのかも、どこまで繋がっているのかも」
ログとレオが目を合わせる。
繋がっている。
その言葉に別の意味を知っている。
ログがゆっくり口を開いた。
「なあ」
古参が見る。
ログは少し身を乗り出した。
「スヴェトグラス」
古参が眉を寄せた。
「……何だ、それは」
ログはしばらく古参を見る。
それから椅子へ戻った。
「いや」
口元が少し上がる。
「何でもねぇ」
レオも古参を見る。
反応はない。
古参が怪訝な顔をする。
「何なんだ」
ログは答えなかった。
少なくとも目の前の男は。
違うらしい。




