第7章 ⑪
翌日。
表の役所。
ログは受付の前に立っていた。
隣にはレオ。
受付には誰もいない。
ログは周りを見る。
奥では人が歩いている。
書類を運んでいる者もいる。
話している者もいる。
でも誰も来ない。
受付の端に小さな呼び鈴があった。
ログが押す。
チン。
誰も来ない。
もう一度。
チン。
レオが横を見る。
「待て」
「来ねぇ」
「聞こえてる」
ログは奥を見る。
誰も来ない。
チン。
チン。
チンチンチン。
「若造」
「来ねぇだろ」
「一回でいい」
「一回で来なかった」
奥から声が飛んだ。
「聞こえております!」
ログが止める。
「じゃあ来いよ」
レオは額を押さえた。
しばらくして。
一人の役人が歩いてきた。
少し不機嫌そうだった。
「お待たせしました」
「ご用件は」
ログが答える。
「人を探してる」
「どなたでしょうか」
「十五年前ここにいた役人」
役人が少しだけ眉を寄せる。
「お名前は」
ログはレオを見る。
レオが前へ出た。
元上司の名前を告げる。
役人の手が止まった。
ほんの一瞬。
でもログは見ていた。
役人はすぐに表情を戻す。
「その者でしたら」
奥を見る。
「古い記録になりますので、確認に時間がかかります」
レオが言う。
「待つ」
「ですが」
「待つ」
役人は少し困った顔をした。
「本日はお引き取りいただいて」
チン。
ログが呼び鈴を鳴らした。
役人が見る。
「何を」
「話の途中だ」
「私はここにおります」
「帰れって言っただろ」
「申し上げました」
ログは受付へ腕を置く。
「だから次の奴を呼んだ」
レオが横からログの腕を掴んだ。
「やめろ」
「何でだ」
「面倒になる」
「もう面倒だ」
役人が咳払いをした。
「とにかく記録を確認しておきますので」
レオは役人を見る。
「もう一人」
役人の顔が強張る。
レオは続けた。
十五年前同じ役所にいた男。
上司の動きを調べ。
突然姿を消した男。
その名前を告げる。
今度は明らかだった。
役人が黙った。
奥で書類をめくっていた者も。
手を止めた。
ログは周囲を見る。
さっきまで聞こえていた紙の音が。
少しだけ減った。
レオが低く聞く。
「そいつの記録も見たい」
役人は答えない。
「聞こえなかったか」
「……その者は」
役人がようやく口を開く。
「自主的に退職しています」
レオの目が細くなる。
「退職届は」
「古い記録ですので」
「あるのか」
役人は黙った。
ログが受付から身体を起こす。
「見せろ」
「部外者にはお見せできません」
「じゃあ」
ログは聞く。
「誰なら見せられる。」
役人は答えない。
ログが呼び鈴へ手を伸ばす。
役人が慌てて押さえた。
「鳴らさないでください!」
ログはその手を見る。
「なら話せる奴を呼べ」
役人はしばらく黙っていた。
やがて。
奥を見る。
「……少々お待ちください」
役人が奥へ消える。
ログはその背中を見送った。
レオが小さく息を吐く。
「若造」
「何だ」
「二度と」
「窓口に立つな」
ログは呼び鈴を見る。
「便利だぞ」
「そういう問題じゃない」
奥で扉が開く音がした。
二人は同時に顔を上げた。




