第7章 ⑩
少しだけ空気が和らいだ。
ログは煙草を吸う。
レオは妹を見る。
生きていた。
十五年ずっと探していた妹が、目の前にいる。
でも話は終わっていない。
「元上司」
レオが呟く。
主が見る。
「心当たりがあるか」
「ある」
レオは答えた。
「あの頃」
「上司を調べていた奴がいた」
ログが煙草を止める。
「誰だ」
レオは少し考える。
昔の記憶を辿る。
一人いた。
上司の動きを疑っていた男。
役所の中で。
一人で調べていた。
そして。
「消えた」
ログの目が細くなる。
「いつだ」
「妹が消えた頃だ」
女が顔を上げる。
レオは続けた。
「突然、役所に来なくなって辞めたと聞かされた」
「それだけだった」
あの頃は自分の妹を探すことで精一杯だった。
同僚が一人消えた。
それ以上追わなかった。
「でも」
レオは拳を握る。
「そいつには」
「弟がいた」
ログが顔を上げた。
「弟」
「ああ」
少しだけ。
沈黙。
ログが煙草を灰皿へ押し付けた。
「待て」
レオもログを見る。
二人とも同じ顔をしていた。
「機構にいた」
ログが言う。
レオが頷く。
「あの子だ」
兄がいなくなった。
その後弟も消えた。
そして地下機構にいた。
主の顔から笑みが消える。
「偶然じゃないな」
「ああ」
レオが低く答える。
「俺の妹」
「上司を調べていた部下」
「その弟」
一つなら偶然かもしれない。
二つならまだ言い逃れはできる。
でも。
三つ。
同じ場所。
同じ時期。
同じ人間へ繋がっている。
ログが立ち上がる。
「組織だ」
レオも頷いた。
「一人じゃない」
主は二人を見る。
「座れ」
ログが見る。
「まだ何もしてねぇ」
「顔がしてる」
ログは黙った。
レオも黙る。
主が指を差す。
「二人とも」
「座れ」
二人は座った。
少ししてログが煙草を一本取り出す。
火を点ける。
「兄貴」
レオが見る。
「生きてるんだよな」
「ああ」
死んだとは聞いていない。
それどころか。
後になって姿を見たという話もあった。
ただ昔とは違っていた。
人が変わったようだった。
命令されたことだけをする。
余計なことを話さない。
そして、いつの間にかまた姿を消した。
ログは煙を吐く。
「探すぞ」
レオは頷く。
「ああ」
「見つけて」
「どうする」
主が聞く。
ログとレオが黙る。
その時、外から笑い声が聞こえた。
常連達だった。
「スヴェトグラス!」
「馬鹿!」
「俺に言うな!」
「反応しねぇな」
「酒一本!」
ログが止まる。
レオも止まる。
主が二人を見る。
「……」
ログがゆっくり。
扉を見る。
「あるじゃねぇか」
レオも気付いた。
繋がっているなら。
反応する。
本人が忘れていても。
隠していても。
身体が命令を覚えている。
ログは煙草を咥えたまま笑った。
「見つけりゃ」
「分かる」
外では何も知らない常連達が。
まだ笑っていた。
「スヴェトグラス!」
「外れ!」
「一本な!」
その声が。
今までより。
ずっと重く聞こえた。




