第7章 ②
数日後。
地下街。
ヴィクはパンを二つ抱えて歩いていた。
角を曲がる。
木箱の陰。
小さな影が動いた。
ヴィクは気付いた。
でも。
声は掛けない。
パンを一つ。
木箱の上へ置く。
そのまま歩き出す。
少し離れて振り返る。
ぼろぼろの服を着た少年が。
辺りを何度も確認しながら。
パンを抱えて走っていった。
ヴィクは何も言わない。
翌日も。
また翌日も。
パンを持って歩いた。
隠れている子供は一人ではなかった。
二人。
三人。
少しずつ増えていく。
誰も地下街の子ではない。
どこの組にも入っていない。
親の姿も見たことがない。
皆。
人を見れば隠れた。
ヴィクは追わない。
パンだけ置く。
食べ物だけ渡す。
少しずつ。
警戒は薄れた。
遠くから。
小さく頭を下げる子もいた。
でも。
近付いては来ない。
数日後。
ヴィクはいつもの場所へ向かった。
パンを持って。
木箱の上へ置く。
待つ。
誰も来ない。
「……。」
別の場所へ向かう。
そこも。
誰もいない。
三人いた場所。
空っぽだった。
ヴィクは辺りを見回す。
争った跡はない。
血もない。
木箱もそのまま。
でも。
地面には小さな足跡が残っていた。
一人。
二人。
三人。
もっと。
全部。
同じ方へ向かっている。
地下水路。
「何で……。」
ヴィクは足跡を追った。
地下水路。
湿った空気。
暗い通路。
水の流れる音だけが響く。
ゆっくり歩く。
曲がる。
また曲がる。
その時。
小さな音がした。
ヴィクは立ち止まる。
「誰。」
かすれた声だった。
暗がりの奥。
小さな顔だけが覗く。
あの女の子だった。
「俺。」
ヴィクは小さく答えた。
少女は少しだけ顔を出す。
でも。
すぐ後ろを見る。
ヴィクも見る。
そこには。
子供達がいた。
五人。
六人。
もっと。
肩を寄せ合い。
身を縮めていた。
誰も話さない。
誰も近付かない。
ヴィクはしゃがむ。
「どうした。」
少女は俯く。
「隠れてる。」
「何で。」
少しだけ間が空く。
「見つかる。」
「誰に。」
少女は首を横へ振る。
答えない。
代わりに。
一番小さな子が震える声で言った。
「また。」
「連れていかれる。」
地下水路が静かになる。
ヴィクは何も言えなかった。
子供達は。
誰一人。
泣かなかった。
泣くことも忘れたように。
ただ。
怯えた目で入口を見つめていた。
ヴィクは残っていたパンを差し出す。
「食え。」
それだけ言った。
少女は小さく頷いた。
パンを受け取り。
一番小さな子へ渡す。
その子は半分に割る。
また半分。
また半分。
誰も取り合わない。
静かに分け合っていた。
ヴィクはその様子を見つめる。
拳を握る。
「……何とかしないと。」
誰に言うでもなく。
小さく呟いた。




