閑話 耳のいいガキ
ミナは、気配を消すのが上手かった。
別に教わった訳じゃない。
地下街で生きているうちに、 自然とそうなった。
《鴉樽》でも、 誰も最初は気にしていなかった。
小さいガキ。
皿運び。
薬草係。
その程度。
だから大人達は、 ミナが近くに居ても普通に喋る。
地下街の人間は、 “子供は話を理解しない” と思っている奴が多かった。
実際は逆だった。
ミナはよく聞いていた。
誰が誰と揉めた。
どこの縄張りが荒れてる。
どの運び屋が最近消えた。
何処の水路は近付かない方がいい。
全部、 酒場の会話から流れてくる。
その日も、 ミナは空の皿を抱えて酒場を歩いていた。
酔っ払い達は気にしない。
「最近《鉄杭》静かだな」
「静かな時の方が怖ぇよ」
「主が動いたって噂あるぞ」
ミナは黙って聞く。
歩きながら覚える。
顔も。
声も。
空気も。
その頃ログは。
酒場の奥で、 何故かナイフ投げの練習をしていた。
「見ろミナ」
「嫌」
「今の俺ちょっと格好良くね?」
「全然」
ログは壁へ向かってナイフを投げる。
カン!!
思い切り外れる。
しかも跳ね返る。
「うおっ!?」
ログ、 自分で避けて転ぶ。
酒場大爆笑。
「危なっかし過ぎんだろ!!」
「何で自分に返ってくんだよ!!」
ミナは真顔だった。
「向いてない」
「傷付くなぁ!?」
その時。
カウンター側で常連がぼそりと言った。
「東水路、明日閉じるらしいぞ」
ミナの耳がぴくりと動く。
「またか」
「最近多くねぇ?」
「何か運ぶんだろ」
ミナは皿を持ったまま、 その会話を覚える。
ログはまだ床で呻いていた。
「……今のは床が悪い」
「床は動かない」
「ミナお前ほんと容赦ねぇな」
二階手すりから、 地下街の主が煙を吐く。
「ガキ」
ミナが見上げる。
主は目だけでカウンター側を示した。
「聞いたか」
ミナは少し黙り、 小さく頷いた。
ログが床から顔を上げる。
「何の話?」
主とミナは両方無視した。
ログが顔をしかめる。
「おい」
主は煙を吐く。
「お前は耳より先に口動く」
酒場爆笑。
ミナも少しだけ吹き出した。
ログは床で不貞腐れる。
「……最近俺への扱い酷くね?」




