第6章 ⑪
主は扉へ手を掛けた。
ゆっくり押す。
動かない。
ミナが鍵穴を見る。
細い針金を差し込む。
かち。
小さな音がした。
「開いた」
もう一度。
主が押す。
……開かない。
「……」
護衛が前へ出る。
肩を当てる。
ぐっ。
びくともしない。
「中で何か押さえてる」
主は耳を当てた。
静かだった。
物音一つしない。
護衛が顔をしかめる。
「遅かったか」
主は首を振る。
「違う」
短く言う。
「生きてる」
その時。
扉の向こうから。
ゴト。
小さな音がした。
ミナが目を細める。
「……荷物か」
主はもう一度押す。
ずず。
ほんの少しだけ動く。
「積んである」
護衛も押す。
ズズズ。
隙間が少し開く。
その向こうから。
小さな声。
「……ぱぱ」
ミナが吹き出しそうになる。
「ヴィク」
主は小さく息を吐いた。
「そういう事か」
護衛が苦笑する。
「守ったんだな」
主は頷いた。
「開けるぞ」
三人で扉を押した。
少しずつ荷物が動いていく。
やっと人一人通れる隙間ができた。
主はすぐ中へ入る。
部屋は暗い。
木箱。
袋。
樽。
その奥。
荷物の陰から、小さな手が見えた。
「ヴィク」
呼ぶ。
小さな影が顔を上げる。
目が合う。
「ぱぱ!」
荷物を乗り越えようとして、ころぶ。
主が受け止めた。
ぎゅっと抱き締める。
ヴィクも離さない。
「よく頑張った」
小さな頭を撫でる。
ミナは部屋を見回した。
「本当に積んだんだ。」
護衛が苦笑する。
「四歳で籠城か。」
ヴィクは得意そうだった。
「わるいひと」
入口を指差す。
「こない」
主は静かに頷く。
「守ったな」
ヴィクも頷いた。
ママ犬が駆け寄る。
くぅん。
くぅん。
ヴィクは犬へ抱き付いた。
「まま」
犬は何度も顔を舐める。
ミナが笑う。
「迎えに来てくれたんだよ」
ヴィクは犬を抱いたまま頷いた。
主は周囲を見回す。
忘れ物はない。
「戻る」
護衛が先へ出る。
外は静かだった。
酒を飲む声だけが聞こえる。
「終わったか」
常連が酒瓶を振った。
「まだ少しある。」
主はヴィクを抱いたまま歩く。
「帰るぞ」
「おう」
地下街へ向かって歩き出した。




