第6章 ⑥
鴉樽は静まり返っていた。
伝言を持ってきた子供は。
入口に立ったままだった。
まだ幼い。
十歳にも届かない。
震えている。
主は煙草を吸っていた。
「誰に言われた。」
子供は俯く。
「知らない。」
「言えって。」
「それだけ。」
店の空気が張り詰める。
白衣が子供を見る。
その時だった。
袖口から。
赤いものが見えた。
「……!」
白衣の目が止まる。
細い。
薄い。
だが。
見間違えるはずがなかった。
赤い線。
白衣は静かに主を見る。
何も言わない。
ただ。
一度だけ頷いた。
主も小さく頷く。
その瞬間だった。
常連が二人。
何気ない顔で子供の横へ立つ。
「坊主。」
「ちょっとこっちな。」
子供は抵抗しない。
静かに店の奥へ連れて行かれる。
レオが眉をひそめた。
「何だ?」
白衣は短く答える。
「身体を。」
「見せて下さい。」
子供は怯えながら袖をまくる。
腕。
赤い線。
さらに。
白衣は首元へ手を伸ばした。
「……少し失礼します。」
襟をめくる。
項にも。
同じ赤い線があった。
店が静まり返る。
ログが低く聞く。
「同じか。」
白衣は頷いた。
「はい。」
「私より。」
「深い。」
白衣は子供の前へしゃがみ込む。
優しく声を掛けた。
「痛みますか。」
子供は首を横へ振る。
「分からない。」
「ずっとある。」
白衣は目を閉じる。
ゆっくり息を吐いた。
そして。
主を見る。
「お願いがあります。」
主は煙草を吸う。
「何だ。」
「この子を。」
「しばらく鴉樽で預からせて下さい。」
「調べたい事があります。」
短い沈黙。
主は煙を吐いた。
「ああ。他に二人付ける」
白衣は小さく頭を下げる。
「ありがとうございます。」
店の奥では。
子供が不安そうに辺りを見回していた。




