第6章 ⑤
朝は過ぎていた。
鴉樽は静かだった。
常連が酒を飲む。
一人が辺りを見回した。
「今日は静かだな。」
別の男が笑う。
「ヴィクが出掛けてるんじゃねぇか。」
「確かにな。」
店の中を見回す。
誰も気にしていなかった。
その時だった。
一人の常連が首を傾げる。
「……ん?」
「どうした。」
「今日。」
「見てねぇ。」
「何を。」
「ヴィク。」
店が少し静かになる。
ログが顔を上げた。
「ヴィク?」
辺りを見る。
いない。
奥を見る。
いない。
ミナが立ち上がる。
「さっきまで……。」
言葉が止まる。
レオが扉を見る。
「外か?」
ログは首を横へ振る。
「主が。」
「禁止した。」
店の空気が変わった。
その時だった。
扉が勢いよく開く。
男が飛び込んでくる。
乳母の夫だった。
息を切らしている。
「ヴィクは!」
「ここだろ!」
ログが答える。
「いない。」
男の顔色が変わった。
「そんな……。」
「妻も帰ってない!」
「娘も一緒だ!」
店の空気が凍り付く。
ログは帽子を掴んだ。
「レオ!」
「来い!」
返事も待たず。
店を飛び出す。
レオも続く。
常連達も一斉に立ち上がる。
その時だった。
扉の外。
一人の子どもが立っていた。
息を切らしている。
「主に。」
「伝言。」
店が静まり返る。
主は煙草を吸ったまま。
子どもを見る。
「何だ。」
子どもは震える声で言った。
「……手を引け。」
「次は。」
「地下街だ。」
煙草の灰が。
静かに落ちた。




