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21話→ネームドモンスター

 

 ――翌日。


「鳥葬って知ってます? まんまアレですよアレ。アラトさんの身体にいっぱい鳥が群がって、クチバシでツンツンツン……でもネーヴェさんが助けに入ったところまで視えたんで、死んではなかったと思いますよ」

「うわあ……」


 鍛冶屋に向かう道中、ふと気になってイルにはどんな未来が視えたのか聞いてみたが、想像すればする程あの場に彼女が居てくれて良かった。


「人の不幸なシーンを見せられるのはちょっと……いえかなりキツイんですけど、こうして役に立てるのならドンドン覗いちゃいますよワタシ! まあ自分の意思じゃコントロール出来ないんですけどネ」

「不自然な力だな」


 他人の『不幸』な未来だけを見通す力。

 任意発動は出来ず、突発的に未来を見せられる。

 不幸の度合いは様々で、法則性は無いらしい。


「はい、おかげで随分と振り回されてきましたよ。見たくも無いのに悪い未来を見せられて……黙っているのも申し訳ないから、その人に不幸な事が起きると教えてあげていたんですが、逆に『ワタシが何か言ったりやったりすると不幸な事が起きる』と思われてしまって……」


 イルは思い出すように昔の自分を語る。

 酷い話だが、確かに周囲の人間からすれば不幸な未来『だけ』を当てているのは不気味に映るだろう。


「気味が悪いと思われながらも、まあ何とかこの歳までは生かされまして。ですが二週間前、父の不倫がバレて母が父を刺し殺す未来を視て――見殺しにするのは可哀想だと思って伝えたのですが、結果はご覧の通り追放からのスラム落ちです」


 スラム街で最初に会った時も少し話していたが、やはり随分と破天荒な人生だ。

 同時に彼女を見捨てなくて良かったとも思う。


「ほんと、何なんでしょうかこの力は?」

「……推測ですが、イルさんの限定的な未来視は先天的な魔術かと思われます」

「え、ワタシマジカルガールだったんです?」


 自分の力の正体について考えているイルに対し、ネーヴェが自らの考えについて話す。

 その辺の知識に疎い俺は黙って聞きに徹する。


「魔術は才能ある人が修練によって開花させる力と、世間一般では言われています。けれど中にはその修練の過程すら飛ばし、この世に生まれた時点で特別な力を持つ人も居ます。イルさんの生い立ちを聞く限り、生まれついての魔術の可能性は高いかと」

「ほえ〜、今まで全く気付きませんでした」


 他人事というワケでは無いが、イルは実感があまり無さそうな反応を見せる。


「魔術に詳しい人が身近に居ないと、知りようがありませんからね。あと、中には生まれた時から魔術の呪文詠唱が脳内で響いていた人も居ますし」

「なんだそりゃ? 勝手に呪文が頭に浮かぶのか?」


 一体どんな仕組みなのだろうか。


「今も『魔術師』達が必死で研究していますが、魔術については分かってない事の方が多かったりします。教会などは魔術を『神の力』と定義して、不必要に調べるのを良しとしてないですから」

「何だか難しい話になってきたな……」


 なんて風にネーヴェ、イルと話していたら、いつのまにか目的地に辿り着く。


 昨日ギルドにニードルバードの数が不自然に増えていた事を報告した後、直ぐに鍛冶屋へ赴き名剣殺しの調子が悪い事を鍛冶師のデメタルに伝えていた。


 彼は「明日の昼頃にまた顔を出せ、それまでには完璧に直してやらあ!」と頼もしい言葉を吐きながらウキウキ顔で工房の奥へと引っ込んでいたっけ。


 元々欠点が多すぎる名剣殺しをまともに使えるようにする為、俺が試験的に使っていたからな。

 自分の手で改良を重ねるのが楽しいのだろう。


「おー、ここが鍛冶屋さんですか。ワタシ初めて来ました」

「俺も冒険者やってなかったら、一生関わる事ないと思ってたよ」


 関わりがなかったのは鍛冶屋だけでは無い。

 妄想でなら何度かしたけど、まさか本当に剣と盾を装備してモンスターと戦う日々を生きるなんて、あの頃の俺にも言っても絶対信じないだろう。


「行きましょうか、アラトさん。イルさん」


 隣に立つネーヴェが微笑みながら言う。

 ……ましてや、こんな美少女と毎日一緒に冒険するなんて、な。


 ――それから毎日は慌ただしくも楽しく過ぎる。


 イルが正式なパーティーメンバーになって冒険者ギルドに登録したり、シュテルン達と共同依頼を受けたり……忙しいけど、充実していた。


 で、俺が異世界に来て二ヶ月が経った頃。


 そろそろストーンランクからブロンズランクに上がってもおかしくないとネーヴェ達と話しながらギルドを訪れると、何やらいつも以上に騒がしい。


「んー? なーんか今日はうるさいですねー。いや昨日もワタシやネーヴェさんにナンパ男が絡んできたりとか、喧しいのはいつもなんですが」

「はい。いつもの騒がしさとは種類が違うと言いますか……言葉で表すのが中々難しい状況です」

「ああ、違和感ってほど大袈裟じゃ無いんだけどな。誰かに聞いてみるか」


 イルとネーヴェも何かを感じているようだ。

 その時丁度、見知った顔を見かけた。

 この事態について聞きたいと思い、声をかける。


「おーい、アスピダー」

「その声は……アラトか。何か用か?」


 錆色髪の少年がこちらに振り向く。

 今日は一人のようで、シュテルンやヴァン、マニといった彼の仲間の姿は見かけない。


「この騒ぎの原因って知っているか?」

「その事か、別に大したことじゃない。暇な冒険者達が騒いでいるだけだ」


 スッとクエストボードを指差すアスピダ。

 そしていつもと変わらぬ硬めの口調で言う。


「どうやらネームドモンスターが出現したらしい」

「ネームドモンスター?」


 聞いたことがないモンスターだ。


「命名された強力なモンスターの事です。人間で言うところの指名手配犯に近しいかと」

「ああ、その認識で大体合っている」


 ひょこっと隣に現れたネーヴェが解説してくれる。

 強すぎるあまり指名手配を受けたモンスターか。

 俺達とは縁が無さそうな存在だが、気にはなる。


「ネームドモンスターってのはどのくらい強いんだ?」

「最低でもシルバーランクが徒党を組んで挑むべき相手だ、ゴールドランク冒険者が出張る事も珍しくない。迂闊にちょっかいをかければ火傷じゃ済まない目に遭うだろう」

「おっかないですねぇ……」


 両手で体を包みこむポーズをしながらイルは言う。

 因みに彼女は既にアスピダやシュテルンとは面識があり、既に俺以上に打ち解けていた。何故だ……


「ネームドモンスターの姿と確認された場所は一応見ておくといい。依頼の最中にうっかり遭遇してもネームドモンスターと分かれば直ぐに逃げられる」

「ああ、そうさせてもらうよ。ありがとな」

「これくらい苦でも何でもないから安心しろ。また会おう」


 最後にそう言ってアスピダはギルドから去った。


 相変わらずクールな男だ。

 俺達は彼の助言に従い、ネームドモンスターの姿や名前、確認された場所が載った用紙を見に行く。


 クエストボードの中央上部、一番目立つ場所に貼られていので直ぐに分かった。


「何々……ネームドモンスター『クラッシャー』。種族はフルメタルゴーレム――如何にも強そうだな」

「見た目は金属の巨人みたいですねー。こんなのに殴られたらぺしゃんこにされちゃいますよ」

「ま、こんな奴と戦うのは上位ランクの冒険者だろうし、俺らとは関係無いから大丈夫だろ。なあネーヴェ……ネーヴェ?」

「――」


 何の反応も示さないネーヴェ。

 彼女はネームドモンスターであるクラッシャーの絵を凝視しながら固まっていた。


 様子がおかしい……おかしいが、俺は今のネーヴェが放っている雰囲気を前にも感じた覚えがある。

 あれは……そう、ギルドに登録しようとした時。


 まるで氷の像のように一切の感情が失われていた。


「ネーヴェさーん? どうかしましたー?」

「……あ、すみません。少しぼーっとしていました」


 イルが声をかけてようやくネーヴェは反応した。


「体の調子でも悪いんですか?」

「いえ、そういうワケでは……それより、今日受ける依頼を決めましょう。ね、アラトさん?」


 ニッコリと微笑むネーヴェ。

 けど、それはさっきまでの笑顔とは明らかに違うことくらい、俺もイルも気づいていた。

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