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20/23

20話→凶兆のニードルバード

 

「それじゃあネーヴェ、イル。準備はいいか?」

「はい、いつでも」

「ワタシもダイジョーブです!」


 翌日、俺とネーヴェの二人だけだったパーティーにイルも加えての依頼を受けていた。

 討伐対象モンスターはニードルバード。


 尻尾が針のように尖っているモンスターで、集団で獲物を狙って襲う習性を持つ。

 気性が荒く凶暴なので注意が必要だ。


「イルは俺の近くに居てくれ。出来る限り守り通すが、相手はモンスターだ。絶対の保証は出来ない」

「覚悟は出来てますのでご安心を! モンスターの遺体は全てワタシが回収するので、お二人は気兼ねなく戦ってください!」


 満面の笑みを浮かべるイルの格好は昨日と少し違い、スラム街の住人のようには見えない。


 実はあの後、ボロボロの姿のままイルをネーヴェの前に連れて行ったらあらぬ誤解を受けるかもと思い、まずは彼女を風呂に入れて綺麗にさせた。


 この世界は日本や古代ローマのように風呂が普及していて立派な大衆浴場もある。

 風呂に入れた後は衣服や下着を購入した。


 彼女の要望でドレスだけは思い入れがあるらしく、服屋の定員さんに頼んで普段着に出来るよう修繕してもらい今に至る。


 今のイルはノースリーブの白いドレスを着込み、グリーンカラーのプリーツミニスカートを履いている。

 背中には長方形のバックパックを背負っていた。


 これは彼女の役割がサポーターだからだ。


 サポーターと一口に言っても荷物持ちだったり後方支援だったり色々あるが、とりあえずイルには倒したモンスターの回収を頼んでいる。


 そしてこれが一番重要だが、彼女は俺の要望で黒タイツを着用してもらっていた。

 勿論理由はある。


 ……普段ローブで隠れてあまり見えないが、ネーヴェの太ももは何も纏ってない生脚である。

 靴下も膝下までの丈なので白い脚線美が眩しい。


 つまり生脚だとネーヴェと被る。


 故にイルには黒タイツ枠になってもらった。

 彼女に黒タイツを買って渡したところ、着る服? が増えたと喜んでいたので問題なかろう。


 イルも俺も嬉しい、誰も傷つかない世界の完成だ。


 閑話休題。


「でもイルさん、無理だけはしないでくださいよ? 何かあったら私もカバーに入りますから」

「ありがとうございますネーヴェさん! それからワタシに敬語なんて使わなくて大丈夫ですよ? こう、自分を神様と勘違いしてるクソみたいな客の態度でオーケーです」

「それだと私がただの嫌な人になってしまう気が……ええと、私のは生まれついてと言いますか、物心ついた時からこうだったので。気にしないでください」


 ネーヴェは苦笑いを浮かべながら言う。

 とは言え嫌な雰囲気は無く、ネーヴェとイルの二人が互いを見つめる表情に悪意や敵意は感じられない。


 その様子を見て心底ホッとする。


 俺がイルをネーヴェに紹介した時、イルは何をトチ狂ったのか「不束者ですがよろしくお願いします!」と言い出してネーヴェの顔が凍りついた。


 あの時は険悪ムードだったものの、日を跨いだ今日では既に打ち解けつつあるようで安心する。

 主にイルの積極性が場を和やかにしていた。


 彼女が居ると会話に花が咲きやすい。


「そろそろニードルバードのナワバリだ。気を引き締めていこう」

「はい」

「了解でっす!」


 ニードルバードの生息地は森だが、中心部ではなく外周部にある木々を住処にしている。


 依頼主によるとサクルの街を目指してやって来た旅人や街を出て行く人を狙って襲撃しているが、護衛を雇っている商会などの一行は狙わない。


 つまりある程度の知能が備わっている。


 森を訪れる前、偶々ギルドに居たシュテルン達にニードルバードの脅威度について聞いたが、俺とネーヴェなら問題無く戦えると言われた。


 依頼の達成条件である十五匹以上の討伐を終えたら深追いせず、すぐに撤退すればピンチに陥るような事はまず起こらないと。なんかフラグっぽいな。


「アラトさん! 見つけましたっ」


 ネーヴェがとある木の枝の上に立つニードルバード達を見つけた。

 俺は鞘から剣を抜く動作を返事代わりにする。


 まずは手筈通り、頼むぞネーヴェ。


「アイスツール・ジャベリン」

「すご……こ、これが魔術ですか……!」


 ネーヴェが魔術を唱え、投擲用の槍を何本も作り出しては地面に突き刺して並べていく。

 そんな彼女を見てイルは目を輝かせていた。


 懐かしい。俺もそういう反応をしていたな。


「……いきます、せいっ!」


 ある程度の本数を揃えたネーヴェは早速一本の槍を手に取り、ニードルバードの群れへ向けて投擲する。

 槍はぐんぐんニードルバード達との距離を詰め、やがて群れの一匹を串刺しにして仕留めた。


 その時にようやく襲撃に気づいたニードルバード達だったが、既に第二射、第三射の槍が迫り次々と刺し落とされていく。


「ガアアアアアアアアアアアアッ!」


 怒りの鳴き声をあげながら、何十匹にも及ぶニードルバード達が一斉に翔び立ちこちらへやって来る。

 ネーヴェは槍を投げ続け一匹ずつ確実に仕留めるが、当然全滅させることは出来ない。

 だがそれでいい、今回の依頼はモンスターの群れの駆除では無いのだから。


「ガアアアアアアアアアアッ!」

「はっ!」

「ガッ!?」


 槍を避けて俺達の元に辿り着いたニードルバードの一匹は、自慢の針攻撃を繰り出すも鉄の盾に防がれ、返す刀で首を斬られた。


 斬ったのは勿論、俺。

 鉄の剣でニードルバードの首を断ち切った。

 細いから楽に斬れて助かる。


「まずは一匹いただきます! うわまだ暖かい……うー、頑張れワタシ!」


 後ろではイルがニードルバードを袋に入れていく。


 安全な街に戻ってから売れる部位だけを解体する。

 大きさが通常のカラス程度なので、運送屋を頼らずとも鞄に詰めれば持って帰る事が可能だ。


 その為にイルを雇ったとも言える。


「ガアアアアアアッ!」

「おらあっ!」


 投げ槍で牽制しつつ、群れでは無く単独で突っ込んで来たニードルバードを俺が確実に仕留める。

 これがネーヴェと事前に相談して決めた作戦だ。


 しかし時間が経つと敵の数も徐々に増え、俺が九匹目を斬った頃には上空を多数のニードルバード達が飛んでいる事態に。


 その内ネーヴェも槍を投げるのをやめ、両手に持って振り回すようにニードルバードを叩き落とす。

 彼女の分も合わせれば、とっくに依頼達成条件の討伐数は超えている。だが――


「アラトさん、想定より数が多いかもしれません! 背後を狙わらないよう気をつけてください! イルさんは完全に囲まれる前に隠れて!」

「が、ガッテンです……!」


 しゅたたたっと離脱するイル。


 僅かな期間でもスラムを生き抜いただけはある逃げ足の速さに驚きつつ、背後を気にしながら一匹ずつ地道に討伐していく。


 ……いや、ちょっと多すぎじゃないか?


「ネーヴェ! なんかおかしいぞ!」


 隣で氷の槍の先端をニードルバードの喉元に突き刺すネーヴェへ聞こえる声量で叫ぶ。

 鳥達の鳴き声で周囲はかなり煩かった。


「はい! 明らかに報告されていた数よりも多いです……! どうして……」

「とりあえず俺達も離脱だ! こんな数はやってらんねえっ! 俺が道を切り開く!」


 ニードルバードの針攻撃を盾で弾きながら鉄の剣を鞘に収め、代わりに名剣殺しを右手に持つ。

 トリガーを引き、さあやるぞと思った瞬間。


「ストーップ! アラトさん止まってくださあああああああああい! どんな武器か分かりませんけど、それ『壊れて』ますううううううううっ!」

「えっ」


 突如、イルが身を乗り出しながら叫んだ。


 頭で考えるよりも先に、体が動く。

 反射的に名剣殺しを投げ捨てた俺は、鉄の剣を再び抜いて応戦する。


「道は私が! アイスツール・スパイク!」


 ネーヴェが魔術を唱える。

 すると地面から沢山の針が生え、俺達を攻撃しようと低空飛行していたニードルバード達に刺さった。


「アラトさん、今のうちに!」

「お、おうっ!」


 一時的にニードルバードの数が減ったのを見逃さず、直ぐに落とした名剣殺しを拾い上げて離脱した。

 目線の先ではイルがぴょんぴょん跳ねながら早く早くと手招きしている。


 さっきのは、もしかしなくても『予知』だろう。

 俺は名剣殺しのトリガーを押してみる。

 だが魔力の剣は形成されず、何の反応も示さない。


「マジかよ……」


 戦闘前に武器の整備を怠っていた俺のミス。

 もし名剣殺しが使えると錯覚したまま、逃走経路を作るために突っ込んでいたらと思うと恐ろしい。


「うひゃー! これが冒険者の生活ですかー! 命がいくつあっても足りなそうですね!」

「ふ、普段はもう少し平和なんですが……いざこういう目に遭うと命の数が足りないと思うのは同感です……!」


 並走するイルを見る。

 兎にも角にも、言わねばならないことがあった。


「イル、ありがとう。おかげで助かったよ」

「――お役に立てたようで、嬉しいです!」


 彼女はニコリと笑った。

 が、直後。


「――すみません、良い話風に終わらせたかったんですけどもう走るの限界でっす! 昨日まで普通の人以下の体力しか無かったんで、まあ当然っちゃ当然なんですけど! というワケでお姫様抱っこを所望します!」


 キラキラした瞳で俺を見たイルがぽいっとバックパックを渡してきた。

 まあそれくらいならと背負い彼女に手を伸ば――


「はい、では私が」


 ――したが、ネーヴェがニッコリとした笑顔で彼女を抱き上げてしまう。


「え、ネーヴェさん!? ちょ」

「舌を噛むかもしれないので、口は閉じておく事をオススメします」

「アッ、ハイ」


 笑顔のネーヴェと真顔のイル。

 な、仲良くしてね……?

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