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19話→不幸を背負いし者

 

「……迷った」


 レジーナと再会した日の翌日。

 俺は中断していたネーヴェへのプレゼント探しの為、街を散策しては目についた店舗を訪れていた。


 その内店舗だけでは飽き足らず、露店販売の商品も含めて選び始めた――だが熱中しすぎるあまり、いつのまにかメインストリートを外れていたのに気づく。


 咄嗟に辺りを見回すと、広がっていたのは所構わず捨てられたゴミに今にも崩れそうな建物群、極め付けはメインストリートに居た市民とは明らかに『違う』と分かる、言い方は悪いが汚れた人々。


 ここは所謂、スラム街だった。

 路地裏のさらに奥にあるような地域。

 日本ではまず目にしない世界だ。


「こういう所に来るのは初めてだ……」


 早く帰ろう。

 その一心で元来た道を戻ろうとしたが、やたらと通路が入り組んでいるので土地勘が無いとまず迷う。


 現に俺は今、迷子と化している。

 困ったな……こういう時にスマートフォンが使えれば助けを呼ぶなり地図を検索出来たりするのに。


 今まで甘受していた文明の機器に感謝しつつ、どうしようかと彷徨っていると。


「あ、ちょっと待ってお兄さん!」

「……ん?」


 道脇から奇妙な少女が現れた。

 何故現れただけで奇妙と評したか?

 それは彼女の服装がチグハグだったからだ。


 上半身は豪華絢爛を絵に描いたようなドレスを着ていたが、所々薄汚れている。


 しかもドレスなら普通スカートまで生地が続いているのに、彼女が着ていた物は途中……下半身に差し掛かる辺りで乱暴に引き千切られていた。


 ドレスの代わりに履いているのは、お世辞にも綺麗とは言えないボロボロのミニスカート。

 今にもズレ落ちそうなのを紐で縛って繋いでいる。


 そんな彼女本人の容姿は――かなりの美少女。

 ネーヴェの美少女レベルを10と仮定すれば、彼女は8〜9、各々の好みを加味すれば10を超える。


 輝く銀の長髪にエメラルドのような瞳。

 肌は白くその所為で汚れが目立つものの、顔を構成するパーツは左右対称で美しい。


 そしてこれは個人的な感想だが、ミニスカートから伸びる二本の太ももの造形が素晴らしかった。


 太すぎず細すぎない、眩さを放つ丁度良い肉付きの太ももは育ちの良さを物語る……欲を言えばその先の大地を踏みしめる箇所も見たいが、残念ながら靴はキチンと履いているので詳細は不明。


 とは言え普段は見えない、見ようと思っても簡単にはお目に出来ないからこそ女性の足裏には価値があると俺は常々考えている。


 ネーヴェに頼んだら見せてくれるかなぁ……ダメだ、即効パーティー解散の未来しか見えねえ。

 ――と、冗談はさておき。


 俺は謎の少女に何用かと尋ねる。


「えーと、俺に何か用?」

「ハイです! んー、急に何言ってんだコイツ? と思われるかもしれませんけど、お兄さんこのまま真っ直ぐ道を進むと良くない事が起きますよ? 具体的には会いたく無い人と会って絡まれます」

「は……?」


 想像以上に謎の少女だった。

 占い師? 巫女さん? 新手の宗教?


「ごめん、どういう意味?」


 聞くと謎の少女はハイテンションで語る。


「予知ですよ予知! ワタシ、他人の『不幸な』未来だけを偶に見通せる力を持って生まれまして……いやー、その所為で親兄妹に気味悪がられて遂にはスラム落ちしちゃいましたけど、的中率は驚異の100%! 信じて損はさせません!」


 中々重い事情が垣間見えた。

 しかしそれを素直に信じる程無垢な俺では無い。

 とは言えいつもの如く、好奇心だけは駆られる。


「……分かった、じゃあこの先の通路にどんな奴が来るのか、一緒に待ち伏せして確認しないか?」

「え!? 信じるんですか!? ワタシが言うのも何ですが正気ですか!?」

「おい!」


 言った本人が口を開けて驚いてやがる。

 腹が立つ、こうなりゃ意地でもその予知が当たっているかどうか確認してやらないと気が済まない。


「行くぞ! もし外れてたら靴を脱いでもらうからな!」

「そ、そんな、ワタシの身体を――って、靴?」


 謎の少女を引き連れながら道を進み、脇道に逸れる所で身を隠しながら暫く待つ。

 すると真っ直ぐ進んだ道の先から、見覚えのある人物が不機嫌そうな顔つきでやって来た。


「くそ、あそこであのカードを出していたら……」


 断片的に聴こえてくる独り言から察するに、賭け事か何かで負けたのだろう。

 体のあちこちから苛立ちを感じる。


 ……待てよ、あの顔。


「――思い出した!」

「やっぱりお知り合いでしたか」

「ああ、でも次会ったら確実に揉めるな。しかもあれだけ不機嫌なら暴力沙汰になってもおかしくない」


 奴は俺が異世界に来た初日、ネーヴェに絡んでいたチンプラ風の男だ。


 顔は見られていたと思うから、もし遭遇していたらあの時はよくも的な感じで絡まれていたに違いない。

 すると彼女の予知は……当たっていた事になる。


 俺とあの男の接触は初日の一回だけで、その繋がりを探すのはかなり難しいと思われる。

 マッチポンプの可能性は低い。


「……お前、何者なんだ?」


 問うと、謎の少女は軽快に答えた。


「ワタシですか? 前はそこそこ良い家の令嬢でしたけど、今はスラム街でゴミ漁りが日課のちょっとだけ不幸な女の子、イルちゃんですっ!」


 ビシィ! と、漫画なら擬音がコマの中いっぱいに書かれていそうなポーズを取るイル。


「纏めると……その奇妙な力が影響で家を追い出されて、今はスラムで暮らしている。で、いいのか?」

「ハイッ! 勘当されたのは丁度二週間くらい前ですかね? いやー、初日はワタシ一人でも生きてやる! って思ってましたけど、今まで温室育ちだった女が一人で生きていけるほど世の中甘くなかったですねー。三日後にはもうゴミ漁りしてましたよ!」


 ちょっとどころかそれなりに不幸だった。

 ある日突然放り出された、か。

 何だか何処かのニートと境遇が似ている。


「それでー、お兄さん?」

「アラトだ。ヨコヤアラト」

「おー、イスト王国の方でしたか。ワタシ黒髪黒目の人初めて見ました――じゃなくて、アラトさん! 見たところ冒険者の方のようですが、どうです? 私のこの力、使ってみません? 今なら毎日の食事代を提供してくれるだけで何でもやりますよ!」


 テレビショッピングで商品を売りつけようと奮闘している販売員のようにイルは自分を売り出す。


 ぱっと見の印象は陽気だが、必死な雰囲気が伝わってくる……そりゃゴミ漁りなんてしたくないよな。

 俺だって一歩間違えたらスラム落ちだったろうし。


「ぶっちゃけこれ以上は体売る娼婦くらいしか生きる道無いです! なので継続的なお金さえくれるなら、ワタシの体も好きにしちゃってどうぞ、娼館で働くよりかはマシなんで!」

「いや、そこまでクズにはなれねえよ……」


 体の要求をするつもりは無い。

 いやひょっとしたら偶に踏んでくださいとか言うかもしれないけど。


 もし彼女の予知が確かなら、まだポーションも満足に買えない駆け出し冒険者の身からすればありがたい、怪我は出来る限りしない方が良いのだから。


 それに……彼女を放っておくのも出来ない。

 とりあえずは試験雇用という事で何日か共に依頼を受けて、ネーヴェと相談しながらその後を決める。


「イル――」


 イルに試験雇用でいいのならと伝えようとした時。

 陳腐な表現だが、もう一人の自分が耳元で囁く。

 脳裏に浮かぶのは、昨日の出来事。


『――放っておけない? おいおい、昨日傷だらけの女を見捨てた奴が言っていい台詞か?』


 違う。あそこで助けても、彼女は何も変わらない。


『嘘つけ。あの女は実力者で、助けても自分が優位に立てないからだろ? その点目の前の女は違うよな。明らかな弱者で、駆け出し冒険者のお前でも腕力でねじ伏せる事が出来る。良かったな、ヤろうと思えば好きにヤレる肉人形が手に入って。これで二人目だ』


 ふざけるな! そんな事は考えて無いし、ネーヴェをそんな風に思った事も一度だって無い!

 彼女は俺のようなダメ人間を救ってくれた恩人で、大切な仲間。それ以上も以下も無い。


 そうだ、だから俺も他人を助けたい。


 あの日のネーヴェのように、手を差し伸べたい。

 そうすればきっと、成りたかった自分に――大体、お前は何なんだよ!?


『何もかもが薄っぺらいな、(おまえ)は……そして俺はお前の夢、理想、欲望、その他諸々をごちゃ混ぜにした存在だ。自分自身で作り上げた、戒めるべき負の側面――』


 囁く言葉は徐々に掠れ、やがて聞こえなくなる。

 何だったんだ、今のは。

 気付けば身体中から冷や汗が流れていた。


「あ、あの〜、アラトさん? 随分と気分が悪そうですけど、大丈夫ですか? ごめんなさい、ワタシ少し勢いよく話しすぎました……」

「い、いや、イルに責任は無いから気にしないでくれ。それよりさっきの続きだけど……暫くは仮メンバーって事でパーティーに迎え入れたいと思う。けど俺には一人だけ仲間がいるから、最終的にはどうなるか分からないけど、よろしく頼む」


 俺の言葉を聞いたイルは一瞬だけ何度も目蓋を開け閉めして呆然とした後、飛び上がりなら喜んだ。


「あ、ありがとうございますアラトさん! 役立たずかもしれませんがそれはそれ、粉骨砕身誠心誠意、貴方の言葉ならたとえ火の中水の中スカートの中、何処へだって突き進む所存なのでどうぞ使い潰してください! よろしくお願いします!」

「む、無理はしないでいいからな? あと、早速頼って悪いけど、俺迷子なんだ。スラム街の出口教えてくれない……?」

「お安い御用でっせ旦那ァ!」


 こうして新メンバー(仮)が一人加わった。

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