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15話→新進気鋭のパーティー

 

「ア、アンタは……!」

「わー、盛大にやられちゃったねレジーナさん」

「っ! 私は、負けてないわよ……!」


 現れたのは金髪碧眼の美少女。

 年齢は多分、日本の高校生と同じくらい。

 剣が収まった鞘を背中から掛けている。


 彼女を筆頭に合計四人の男女が岩陰から現れた。

 どうやらレジーナは彼女達と面識があるようだが、俺とネーヴェは何も知らない。


「あの人達は、まさか……」


 ネーヴェが静かに呟く。

 訂正。知らないのは俺だけでした。

 鍛錬に夢中で情報収集を怠っていたのが原因か?


「急に出て来てごめんね二人とも? 冒険者同士の揉め事に首を突っ込まないのは暗黙の了解だからさ。けど、もう決着がついたなら別にいいよね」

「勝手に決めんな! 私は……!」

「悪いが拘束させてもらうぞ、レジーナ・アイオレット。お前の行動は目に余る」

「がっ……!?」


 錆色髪の少年が現れ、静かにそう言った。

 直後に素早くレジーナをうつ伏せに押し倒し、頭を押さえたと同時に左腕を捻りあげて制圧する。


 その光景に驚いていると、金髪の少女が言った。


「自己紹介が遅れちゃってごめんね? 私達は全員シルバーランクの冒険者で、今は四人で固定パーティーを組んでいるの。私はリーダーのシュテルン、よろしくね! あ、勿論君達に危害を加えるつもりな無いし、この争いの原因がレジーナさんにあるのも理解しているから安心して? まあ要するに――私達は、味方だね」



 ◆



 シルバーランク冒険者・シュテルン。


 一年と少し前に冒険者デビューしたかと思えば、三人の仲間を連れてあっという間にシルバーランクへ昇格した正真正銘の天才。


 ギルドからの信頼も厚く、ゴールドランクへの昇格も確実と期待されている新進気鋭のパーティー。

 ネーヴェからの話をまとめるとこうなる。


 そんな彼女達が、何故吹けば飛ぶようなストーンランク冒険者でしかない俺達の前に現れたのか。

 疑問は絶えないが、とりあえず敵意は感じない。


 肩の荷が下り、ドッと疲れが押し寄せる。

 しかしまだ何の解決にもなってない。

 まずは名乗られた以上、こちらも名乗る。


「俺はストーンランクのヨコヤアラトだ」

「私もストーンランクで、ネーヴェと申します。あの、失礼ですがシュテルンさん達はどうしてここに? 依頼の帰りではあるようですが」


 目前の四人組からは微かな疲労の色が見えているし、装備も相応に汚れている。

 モンスター討伐でもして来たのだろうか。


「わあ、良い観察眼だねネーヴェさん。冒険者にとって眼力は生存に直結するからね〜」

「あ、ありがとうございます……?」


 ポンポンとネーヴェの肩を叩くシュテルン。

 彼女は陽気な性格のようだ。

 残念ながら答えにはなって無い。


 それを見た錆色髪の少年が嗜める。


「シュテルン、二人が困っているぞ」

「あはは、ごめんごめん。可愛い後輩を見たらつい、ね。実はエルナさんから頼まれたんだ」

「エルナさんから?」


 意外な人物の名前が出てくる。

 いやでも、同じ冒険者ならギルドの職員と知り合いでも何らおかしくないか。


「私達、駆け出しの頃にあの人にはけっこーお世話になったからさ。偶々今日受けた依頼がこの辺りの近くだったから、ついでに二人の様子を見て来て〜って頼まれたんだよね。レジーナさんと揉めるかもしれないからって」

「そうだったのか」


 あの人は今朝の出来事を何処からか見ていたのか。

 職員としてレジーナの性格を熟知している彼女なら、今日中に俺達が絡まれると予想出来る。


 そこでシュテルン達を頼ったと。

 なんか、人と人の繋がりを感じるなあ。

 同時に嬉しく思う。ありがとうエルナさん。


「で、本題に入るけど……彼女、どうする?」

「う、ぐ……!」


 ジタバタともがくレジーナを全員で見下ろす。


「今は魔術で動けなくしている――ついでに言うと俺の名前はアスピダだ。サブリーダーを務めている」


 錆色髪の少年はアスピダという名前のようだ。

 理知的な雰囲気を漂わせているが目元には僅かだがクマがあり、どこか疲れている印象を抱かせる。


「よろしくアスピダ。それでこういう場合、正当防衛って適用されるのか?」

「されるだろうな。アイオレットは明らかに悪意を持ってお前達に襲いかかった、しかも依頼を終えた瞬間を狙い撃ちにしてな。これで正当性が主張出来ないなら、ギルドに秩序は存在しない事になる」


 良かった。日本だと正当防衛って殆ど成立しないって聞いたことがあるから、不安だったんだよな。

 異世界の法整備も馬鹿に出来ない。


「とは言え今回の場合、一々ギルドに報告する意味も無いだろう。一方的に襲撃されたのだからな」

「じゃあどうするんだ?」


 何気なく聞いた言葉だったが、ここで俺は日本と異世界の命に対する認識の違いを思い知らされた。


「両腕か両足、どちらかを切り落とせば早々悪事には手を染められないだろう。最悪殺したところで、この女を擁護する者も居ない。魔眼で男を操っていたなら尚更だ。本人が死ねば洗脳も何も無い」

「え……? ちょ、それはやりすぎじゃ?」

「……? ああ、お前は駆け出しだったな。それなら分からないかもしれないが、冒険者同士の揉め事、それも武力行使に発展した場合の決着は大抵そんなものだ。ギルドも目を瞑っている」


 はいそうですかと素直に頷く事は出来ない内容だ。

 この世界が安全な日本とは違うのは重々承知してたが、それにしたって衝撃的すぎる。


「そりゃ確かに理不尽な暴力を受けたし、正直まだムカついてるけど……こうしてやり返す事も出来たし、あとは罰金とかランク降格とか、その辺で済まそうかと思ってたんだけど……ネ、ネーヴェはどう思う?」


 被害者にはネーヴェも含まれている。


「私はアラトさんの判断に従います。ただ……アスピダさんの言う通りにした方がよろしいかと。彼女が反省するとは思えませんし、またアラトさんに危害を加える可能性が高いですから」

「っ……!」


 俺はどこかで縋っていた。

 心優しい彼女なら、俺の意見……平和ボケした日本人の感性に共感してくれると。


 とは言え基本的には俺の意見に賛同するらしい。

 彼女の信頼に付け入る事になるが、ここは……


「……俺はこれ以上、コイツをどうにかするつもりは無い。ギルドに突き出せば罰則は受けるんだろ?」

「あ、ああ、それはそうだが……随分甘いな」


 アスピダは困惑しながら俺を見る。


 彼の仲間二人も同様だ。

 ただ一人、シュテルンだけが無表情でこちらを観察するように見ている。


「悪いネーヴェ、お前の心配を無駄にして」

「そんな事ありません。いざという時は、私がアラトさんを守ればいいのですから」

「お、おう」

「話は纏まったみたいだね? じゃあ行こっか」


 シュテルンがリーダーシップを発揮し、この場を終わらせようとした瞬間。


「ま、待ちなさいよ……!」


 顔を強制的に伏せられたままのレジーナが叫ぶ。


 何か言いたそうだったので、アスピダに頼んで拘束を解いてもらう。

 どうせ移動する時には普通に歩かせるし。


 勿論左目には眼帯を付けてもらった。


「……用があるのはアンタよ、アンタ」

「何だ?」


 立ち上がったレジーナはゆっくりと唇を動かした。


「なんで、私を殺さないのよ」

「聞いてなかったのか? そこまでする必要が無いと俺が判断したからだ」


 すると彼女は何故か怒り出す。


「ハァ? アンタどこまで甘ちゃんなの? 私が報復するとか思わないの?」

「その時はその時だ。俺もネーヴェも、今よりもっと強くなって迎え撃つ……てか何で怒ってんだよ?」

「うるさい……クソ、調子狂うなぁ……」

「そりゃこっちのセリフだ、死にたいなら勝手に自殺でもしてろ。死にたがりを止めてやるほどお人好しじゃない」

「……もう十分お人好しだっての」


 ブツブツと文句を言い続けるレジーナ。

 面倒なので強制的に会話を打ち切り、先頭を歩いて彼女の言葉を全て無視した。


 今日は朝から災難続きだなぁ……

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