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14話→魅了の魔眼

 

「逃すワケ無いでしょ? ソイツには、今から私の新しい下僕になってもらうんだから」

「な、にを……! アラトさん……!」


 笑いながらこちらへやって来るレジーナ。

 循環は……よし、作用しているな。

 動こうと思えば動き出せる程度には回復した。


 しかし真正面から挑んでも勝てはしないだろう。

 いや、最早勝利する必要は無い。

 どうにか隙を見つけ、ネーヴェを抱えて逃げ出す。


 カッコ悪いがそれしかない。

 全く、偽善で人を助けた結果がコレだ。

 五年前と何も変わってないと自己嫌悪に陥る。


 それにしても、俺がレジーナの下僕になるだって?

 この状況であの女は何をするつもりだ。

 ……流石にこの場でナニは始めないと思うが。


 とりあえずは様子を伺い、逆転の時を待つ。

 やがてレジーナは男の元まで辿り着き、嫌悪感に満ちた表情で見下ろしながら言う。


「さっきも似たようなこと言ったけどさ、私アンタらみたいな善人面した連中が大嫌いなのよ。特に男」

「……そりゃまたどうして?」


 時間稼ぎの為に話しかける。

 無視される可能性の方が高いと考えていたが、彼女は意外にも食いついた。


「どいつもこいつも、一皮剥けたら性欲塗れのクズでしかないからに決まってんでしょ! 分かってんのよこっちは! そんな男のアンタがヒーロー気取りで人を助けたのが、私は心底気に食わない……!」


 嫌な思い出でもあるのか、彼女は男という理由だけで苛立ち混じりに俺を罵倒する。

 やたらと感情的な様子に驚く。


 まるでモノにあたる子供だ。

 ……物事には大抵、そこに至るまでの原因がある。

 きっと男性に何かされたのだろう。


 その腹いせ、あるいはトラウマを払拭する為に男を支配して精神を安定させている。

 狙われた男からしたら厄介極まりないけど。


 レジーナの本質や性格はある程度把握した。


 要するに過去の経験に振り回されている。

 俺には分かる――何故なら俺もまた、自分の過去と未だ決着をつけられていないから。


 とはいえ疑問はまだ残っている。

 エルナさんが言っていた通り、どうやって数多くの異性を虜にしたのか、その方法が分からない。


 そんな時、レジーナが自らの眼帯に触れた。


「――だからアンタも同じようにしてやるわよ。私の言葉に絶対服従の、可愛い可愛い下僕ちゃんに」

「その、目……!」


 眼帯を剥ぎ取るレジーナ。

 彼女の左目は、健在だった。

 おかしいところがあるとすれば、色。


 右目が紫色なのに対し、左目は桃色。

 一点の濁りも無い、芸術品のような美しい瞳。

 桃色の左目でレジーナは俺の目を『視る』。


「堕ちろ。私の下僕に、身も心も」

「っ……!」


 押し寄せる異物感。


 彼女の瞳から文字通り目が離せない。

 呪いのような魔性の魅力でも秘めているのか、全ての意識が桃色の眼球に奪われる。


 だが――


「アハ、この『眼』は男の本性を暴くのよ。そうね〜……今からあの良い子ちゃんを犯せ。激しく、雄々しく、一切の躊躇無く」

「なっ……! あ、貴女は何を言って……!?」

「信じられない? でも残念、コイツはもう身も心も私のモノ。私が足を舐めろと言ったら喜んで舌を突き出す、浅ましい豚に成り下がった――いえ、汚い本性を引きずり出してやったのよ」

「ア、アラトさんはそんな事しません!」

「その言葉、行為の最中にも言えるかどうか楽しみねー。ほら、さっさとあの女ヤリに行けよ、クズ」


 愉快そうに笑うレジーナと、顔色を青白くさせながら狼狽しているネーヴェ。

 俺はゆっくりと立ち上がる。


 そして、持てる全ての力を引き出して……レジーナの顔面を渾身の右ストレートで殴りつけた。

 自らの拳が傷つく程の勢いで。


「ぶはっ……!?」


 意識外から繰り出された、不意の一撃。

 循環で刃物すら通さない強靭な肉体に仕上げていても、衝撃そのものは殺せない。


 顔を抑えて蹲るレジーナを見届けてから、駆け足でネーヴェの元に向かい彼女の体を抱きかかえた。

 目立った外傷は無いのが幸いか。


「大丈夫か?」

「わ、私は平気です。アラトさんの方こそ、あの人に何かされてたみたいですけど……」

「ああ、なんか眼帯で隠されてた方の目を見たら、こう……頭の中がフワフワして、何故かレジーナの命令を聞かないとって気持ちになったな。ギリギリのところで踏みとどまれたけど」

「成る程……洗脳系の魔術でしょうか?」


 相手を洗脳する魔術とかあるのな、怖いな。

 それはともかく、これでレジーナが男達を下僕にしていた方法が分かった。


 あの不思議な『眼』を利用していたのだろう。

 俺のオタク知識によると、あの手の能力は大体《魔眼》に分類されることが多いとある。


 まあ本人に聞いてみるのが一番か。


 起き上がろうとしているレジーナを見る。

 彼女は自分の身に起きたことが信じられないとばかりに目を白黒させていた。


「ど、どうして……? こんな事、あり得ない……! だってこの眼は……私の父親でさえ」

「おい、あんた。その眼、もしかして魔眼か?」

「っ! そっ、そうよ。よく知ってるじゃない」


 平静を装っているつもりだろうが、ボロボロだ。

 余程あの左眼の力に自信があったのだろう。

 彼女は自ら魔眼について話してくれた。


「……この左眼は『魅了の魔眼』。異性を、私の場合は男を虜にする異能の眼。今までこの眼を見て正気を保っていられた男なんていなかった! なのにアンタは、どうして効かないのよ!?」

「さあな、俺も知りたい」


 戯けるように言う。実際分からないし。

 しかしその返答は彼女が望むモノでは無かったのか、激昂しながら俺に向かって来る。


「だったら直接叩きのめして従わせるまでよ!」


 凄まじい怒気に気後れする。


 だがよく見ると動きに精細さが欠けていた。

 おかげで左脚のハイキックを繰り出されても、落ち着いて上体を逸らして避ける事に成功する。


「この!」

「っ……! でも、力強さは健在か」


 続けて放たれた正拳突きも盾でガードする。

 強い衝撃が腕を伝って身体の芯まで響いた。

 だがこちらもやられっぱなしでは気が済まない。


 次の攻撃の為に右腕を引いた瞬間を狙い、名剣殺しを腰から抜いてトリガーを押す。

 一瞬で構築された魔力の剣の切っ先を振るい、彼女が身に付けていた鎖帷子を斜めに斬り裂いた。

 鎖帷子はガチャンと音を立てながら地面に落ちる。


「何よ、それ……!」

「余所見してる暇は無いぞ!」

「くっ……!」


 名剣殺しを見て驚くレジーナ。

 その隙に脇腹へ蹴りを叩き込む。

 が、咄嗟に腕を入れ込まれて防がれる。


 攻めるなら今しかない。

 接近して打撃を加えようとしたが、俺の背後で大きく膨れ上がる魔力を察知した。


「お返しです! アイスツール・ハンマー!」


 ネーヴェだ。

 彼女はレジーナの体勢が崩れた隙を見逃さず、最も得意だと思われる武器を生成する。


「しまっ――きあああああああああっ!?」


 可愛い悲鳴をあげながら、鎖帷子に守られていた胴体をハンマーで殴られたレジーナはボールのように地面を転がっていく。


「う、く…………こ、のお……!」


 転がった先で悔しそうに顔を歪めるレジーナ。

 巨大ハンマーによる攻撃を正面から受けたにも関わらず、まだ意識を保っていた。


「なあ、もうやめないか? 今回は痛み分けって事で。これ以上は誰か死ぬかもしれない」

「上等……よ……!」

「や、俺はまだ死にたくないんだけど」


 レジーナは強い、俺よりも遥かに。

 本来ならこちらが瞬殺されて終わりな筈が、偶然が重なってこういう状況になっている。


 後腐れのない解決をしたいが、どうしたものか。


「アラトさん、あの人……」


 ネーヴェが呟く。

 視界の先ではレジーナが立ち上がろうとしていた。

 仕方ない、まずは彼女を拘束して――


「はーい、勝負あり! 三人とも、その辺にしておいた方がいいと私は思うよー?」


 その時、ネーヴェでもレジーナでもない、女性的な明るい声音が響き渡った。

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[気になる点] とはいえ疑問はまだ残っている。 アンネさんが言っていた通り、どうやって数多くの異性を虜にしたのか、その方法が分からない。 >アンネじゃなくてエルナさんじゃない? [一言] 転移特典のチ…
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