第六章 最終幕 約束
春、
影山のZ2は九州の¬やまなみハイウェイを走っていた。
「く〜。まだ寒いな。」
ネックウォーマーを顎まで引き上げる。
寒いのにアクセルを開けてしまう。
それがバイク乗りというものだ。
途中の牧ノ戸峠駐車場に停めた。
自動販売機で小銭を財布から取り出す。
「手が震えるなぁ。」
影山は苦笑いした。
どうして車で来なかったのか。
「バイク乗りだからさ。」
自分で考えて自分で突っ込んだ。
ホットコーヒーを飲みながら、景色を見た。
「やっぱZ2で来て正解だ。」
「……いや、別に遊びで来た訳じゃない。」
やはり、自分でボケて自分で突っ込んだ。
久しぶりの景色を楽しんでいたら、
「影山?」と声を掛けられた。
「おお、久しぶり、」影山は答えた。
「こんな時期にどうして九州にいるんだ?」
男は影山に尋ねた。
「人を探してる。一緒にどんちゃん騒ぎができる仲間をな」
影山は、笑いながら話した。
話していると男の目の色が変わって行くのがわかった。
影山は九州で最初の仲間を手に入れた。
男の名前は野村亮太と言った。
野村と一緒に九州で仲間を募った。
暁グループの九州の拠点に、
人材派遣会社ロードキングのアジトを置くことになった。
九州は野村に任せた。
影山は今度は四国に向かった。
Z2は次の仲間を探して走り出した。
影山は日本中を回った。
日本中に人材派遣ロードキングの基盤を作って来た。
暁商店街に帰って来た。
「赤井。」
「はい。」
「あとは任せた。」
影山は、拠点のソファーの上に滑り込むように眠った。
赤井は新しい仲間の名前と場所と連絡先を受け取った。
北から南まで、日本中に点が散らばっていた。
赤井は、少し口角をあげ、
影山さんらしいなと思った。
沖縄
数年後、まず本土とは空気が違った。
どこまでも青い空、どこまでも澄んだ海。
約束通り、影山は仲間300人と共に、沖縄にやって来た。
「影山さん、ひさしぶりです。」一人の女性が話しかけて来た。
「えりさん、あの日本一周の?今沖縄なの?」影山は驚き、そして—
喜んでいた。
影山が日本中を旅していた時、キャンプ場で知り合った女性だった。
彼女の地元は沖縄だった。
「私、今ホテルで働いています。300人の団体さんの代表に、影山さんの名前があったからもしかしてと思って。」
「ここで働いているの?」影山は驚いた。
「一応名前は俺だけど、仕切っているのは赤井だよ」
そう言って赤井を紹介した。
「ロードキング副社長の赤井です。よろしくお願いします。」
赤井は名刺をさしだした。
赤井は心の中で、三代目は封印だと思った。
「集合時間まで解散だ」赤井はみんなに言った。
みんな各自の部屋に散っていった。
「沖縄は、なんだかゆっくり時間が流れているな。」
影山はえりにそう言った。
「そこが私の地元の魅力なのよ」えりは少し微笑んだ。
「今日は少し騒がしいかもしれませんが、よろしくお願いします。」
赤井が頭を下げた。
えりは少し笑いながら、
「存じております。大丈夫です。」
と答えた。
影山は少し離れた位置で、
「今夜は、クレイジーナイトだぜ!」
誰に向けた言葉かわからない言葉で言った。
宴会
沖縄の夜はやはり本土とは違う空気だった。
どこかエキゾチックな雰囲気で、潮の香りがした。
宴会場は外だった。空を見上げると見たことのない星の数だった。
赤井が言った。「影山さん、乾杯の音頭お願いします。」
「わかった。みんなー、ジョッキ持ったかー」
テーブルの上には、ビール以外にも、泡盛のボトルも沢山並んでいた。
見たことのない沖縄料理がところ狭しと並んでいた。
みんな興奮して影山の声が聞こえていない。
影山がジョッキを下げ、「赤井。」と言った。
赤井は「みんなー聞け!」と言った。
宴会場は静まり返った。
「影山さん、どうぞ」赤井が言った。
「俺がテキサスに行った時、偉い人に約束させたんだ。」
「なにをですかー」誰かが言った。
「社員旅行に連れてってやるっていったから、念を押したんだ。」
「影山さんそれ、サイコーです。」
どっと笑いが起きた。
「まぁまぁまぁ。」
影山は笑顔で手を上下にふりながら、
「それから、たくさんの仲間と宴会したら楽しいだろうなって言われた。」
「だから俺は全国を回って仲間を集めた。」
「俺は今、本当に楽しんでる。」
ここでまた、どっと笑いが起きた。
「いいか、みんな、今夜は、クレイジーナイトだぜ!」
赤井が続けた。
「飲めや歌えのどんちゃん騒ぎだ。」
影山がジョッキを高く掲げた。
「乾杯!」
沖縄の夜は長かった。誰も時間を気にしない。
ただその場にある時間を、全員で飲み干した。
同じ夜
優作はホテルの一室で、窓を開け、パソコンを開いていた。
宴会の笑い声や、誰かの大きな声は聞こえて来ていた。
海が見えていた。月明かりが海に映って揺れていた。
影山の偉い人、の言葉で少し笑った。
「適材適所だ」小さくつぶやいた。
『優作』
『報告があります。』
ARKの声がパソコンから響いた。
『一部ウイルスが拡散し出しています。ただし—』
『病原体の拡散パターンに、不自然な点があります。』
『人為的な可能性があります。』
「証拠は」
『ありません。ただ、GFの資金が流れた痕跡があります。』
「確信はないんだな」
『はい。』
遠くでは宴会の笑い声がしていた。
沖縄の波は、引いて、また返していた。




