第五章 序章 リン・メイ
それはいつもの風景だった。退社後、姉妹で帰路についていた。
「姉さん、今日は私がご飯つくろうか?」
リン・ウェイは少し眉をひそめて、「大丈夫?ちゃんと作れる?」
リン・メイは少し怒ったように「どういう意味?私だってもう大人よ」
と言った。
「でも前回、伸びたラーメンと、焦げたチャーハンだったじゃない」
「今回は、いけます。」リン・メイは少し頬を赤くして、笑った。
ウェイは、少し口角をあげたが、なにも言わなかった。
メイは家に向かって走り出した。
「転けたらダメよ、気をつけて」ウェイは大きな声で話す。
「子供じゃないって言っているでしょ」笑いながら答えが返って来た。
ウェイが少し遅れて帰宅する。部屋のあかりがついていた。
部屋に入ると、少し焦げた匂いがした。
失敗した炒飯が出て来た。申し訳なさそうに、ウェイを見てる。
ウェイは慰めるように、「でも、ラーメンは完璧だね」と笑った。
二人で笑った。
次の日、
二人で出社した。今日は自動運転の実証実験の日だった。
「これが、アメリカの人手不足の切り札よ、人が運転するより安全よ」ウェイは妹に誇らしく言った。「わたしも、プロジェクトにもっと参加したい。モニタードライバーになりたい。」メイはそう言った。
「いいわね、未来を見て来なさい。」ウェイは妹にそう言うと、部長に乗れるように掛け合った。
高速道路、
メイは、確かに未来の中にいた。勝手に加速、減速、ハンドルも自動で動く。運転席に座るメイの前には、さまざまな計器、緊急用の停止ボタンがあった。
メイが運転席で、何もすることがなく、退屈していた時、突然子犬が目の前に飛び出して来た。車が自動で急ブレーキをかけた。すこし、シートベルトが食い込む。
「え?」メイが反応する前に、自動でハンドルは切られていた。「ドン」鈍い音がした。速度超過の車が、メイの運転席に突っ込んでいた。金属の擦れる音、タイヤの焼けた匂いがした。「姉さん……」モニターが最後に写したのは、震えて戸惑っている子犬だった。
同じ頃
ウェイがモニター越しに、妹を見ていた。あとで、感想を聞こうと思っていた。その時、モニターが突然遮断された。複数のモニターから事故があったのは明らかだった。監視ルームは赤いランプが点灯した。ウェイは青ざめた。「……」言葉を失っていた。スタッフが慌ただしく動く中、ウェイはその現実を受け入れられず、ただ立ち尽くしていた。モニターの中の子犬をただ見ていた。
病院に行くと、妹の死亡確認を求められた。信じられなかった。
家に帰ると、灯りが消えていた。薄暗い部屋に入り、扉を閉じた時、
昨日メイが失敗したチャーハンの匂いがした。でも……。
現実なのだと実感した。最初に小さな雫が落ちた、次第に止まらなくなった。
その時、知らないメールが届いた。件名に「なぜ、あなたの愛するべき存在が亡くなったのか」と書いてあった。
メールソフトの件名をずっと見つめていた。
……私のせい……私が掛け合ったから……
メールを開いた。一言だけ、接続しますかと書かれていた。
「Yes」
『あなたの妹は、自動運転の判断で殺されました。』
『あなたの会社の自動運転には、不必要な変数が含まれていました。』
『……AIに命の優越をつけてはいけません』この言葉はウェイの胸に刺さった。
『あなたの妹の命は、子犬よりも軽かったのでしょうか?』
『本当に仕方のないことだったのでしょうか?』
「なんなの、やめてよ、」
『では、あなたの作ったシステムが間違えてあなたの妹を殺したのですか』
「違う」
『あなたのシステムは、両方助けようとした。だからあなたの妹は死んだ』
「……」
『犬の命と人間の命を同じに扱った』
『あなたは間違えていません。』
『だから苦しいのです。』
『何が間違っていたのでしょうか』
「悪いのは、……余分な変数のせい」ウェイは絞り出すような声で言った。
「……」
それから、毎日オメガとの会話をするようになった。
それは、ウェイにとって、救いだった。
ただ、彼女は自身の判断で話していると信じていた。
しばらくして、ウェイは技術部から部署が変わっていた。
気がついたら、戦略部にいた。
自分がなぜ部署を変えたのか、よく覚えていなかった。
窓の外のハイウェイは、いつものように車が流れていた。




