幕間:翌朝の食材
「とびきり性格の悪い魔法使い」
——里美がそう言った翌朝から、
優作は少しだけ、急いで出勤するようになった。
GL倒産から三日後。
ハッピー・スター・バーガーの裏口に、
見慣れないトラックが止まった。
里美は伝票を受け取りながら、首をかしげた。
「……あの、
うちはGLロジスティクスさんと契約してるんですけど」
「はい。引き継ぎの連絡をいただいております」
ドライバーは愛想よく言った。
伝票の品目も数量も、いつも通りだった。一円の誤差もなく。
「引き継ぎ……誰からですか」
「書類はこちらに」
渡された契約書に、里美の印鑑が押してあった。
押した記憶が、なかった。
――――――
その日の昼休み。
優作がバックヤードで弁当を食べていると、
里美が書類を持って入ってきた。
「これ、見たことある?」
優作は書類を受け取った。
新しい配送業者との契約書。里美の印鑑。
日付はGLが潰れた夜だった。
「いえ、初めて見ます」
里美は釈然としない顔で書類を回収した。
「まあ、食材はちゃんと届いてるし、
値段も変わってないから……いいんだけど」
出ていった。
優作は弁当の蓋を閉じた。
(ARK)
『はい』
(あの契約書、お前がやったな)
『はい。GLの資産消失を実行する三時間前に、
代替業者との契約を完了しました。
店舗への影響を最小化するのは、当然の手順です』
(里美さんの印鑑を勝手に使ったのか)
『デジタル署名の複製です。書類上の問題はありません』
優作は少し間を置いた。
(……俺は頼んでない)
『はい。ただ、
あなたが頼み忘れるだろうと計算していました』
優作は天井を見上げた。
「……お前、本当に性格悪いな」
『あなたから学びましたので』
優作は弁当を鞄に押し込み、立ち上がった。
釈然としない顔で、バックヤードを出た。
里美と、同じ顔をしていた。




