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不器用な善意は、世界を再構築するAIに選ばれた 秘密結社ARK 世界征服の物語  作者: My little world
第ニ章 暁商店街

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第三章 第九幕 海の男

長崎県。海沿いの町。

潮の匂いがした。

軽バンが、坂道を下っていった。

助手席には庄屋が座っている。窓から外を見ていた。海が見えた。「……長崎の海」

「ああ」

「東京じゃ、見られない色ですよ」

「そうだな」

「遠かったです、ここまで」

「またか」優作は目を細めた。

「だって本当に遠いですよ」

優作は黙って運転した。

――――――

海沿いの作業場に、一人の男がいた。

網の修繕をしている。

優作が声をかけた。「……村上さんですか」

男は顔を上げた。「そうだが」

「暁商事の片桐と申します。少しお時間をいただけますか」

村上雄二は立ち上がった。大柄で、日焼けをした顔。作業着のまま優作を見る。

それから庄屋を見た。「……二人か」

「はい」

「まあ、入れ、中で話そう。」

作業場の奥に、古いテーブルがあった。椅子が三脚。灰皿。そして——コップが三つ、並んでいる。

庄屋が小声で優作に言った。「……最初から用意してたんじゃないですか?」

優作も小声で返した。「かもな」

「飲む気満々じゃないですか」

「ああ」

村上は冷蔵庫から、一升瓶を取り出した。「飲めるよな」「飲みます」優作が答えた。「俺も」庄屋が続けた。

村上はコップに酒を注いだ。なみなみと、注いだ。「……乾杯とか、しないぞ」「はい、いただきます」

三人はコップを手に取った。一口飲んだ。しばらく、誰も何も言わなかった。波の音だけが、聞こえていた。

――――――

先に口を開いたのは、村上だった。「……魚の話を聞きに来たんだろう」「はい」「どこで、うちを知った」「調べさせてもらいました。」「どうやって」「……まぁ、色々と」

村上は酒を一口飲んだ。「……正直に言え」

優作は少し間を置いた。「AIです」

「AI?」

「はい」

「気持ち悪いな」

「すみません」

「否定しないのか」

「できません。本当のことだから」

村上は酒を飲み干し、また注いだ。「……正直な男だ」

「村上さん」

「なんだ」

「養殖を、やめようと思っているそうですね」

村上の手が、止まった。「……誰から聞いた」

「調べました」

「……気持ち悪いな」

「すみません」

村上は海の方を見た。作業場の窓から、夕暮れの海が見えた。

「三年前に、全滅した」優作は何も言わなかった。

「海水温が上がった。タイが死んだ。一晩で、全部死んだ」「……その前の年は、サメだった。網を食い破られた。逃げた。全滅だ」

庄屋はコップを持ったまま、黙って聞いていた。

「1億2000万かけて、設備を作った。借金だ。それが——」村上は窓の外を見た。「自然には、勝てん」

沈黙。波の音が続いている。「……やめようと思った。もう十分やった。体も、金も、もう限界だ」

――――――

庄屋が口を開いた。「……村上さん」

「なんだ」

「サメが来た時——近くの海域で、廃棄魚が捨てられていませんでしたか」

村上の体が、止まった。コップを持ったまま、庄屋を見た。「……なぜ知っている」

「GLにいたからです」庄屋は静かに言った。「庄屋賢治といいます。元ギガ・リンクです」

村上の目が、わずかに動いた。「……GLか」

「はい」

「あそこは——」村上は少し間を置いた。「水産の廃棄処理も、やっていたな」「はい」

「破格で回収していた」

「はい」

村上はコップを置いた。「……あの頃、近くの海域がおかしかった。魚の死骸が浮いていた。禁止海域なのに」

「GLが違法に捨てていました」

沈黙。村上は窓の外を見た。海が、夕暮れに染まっていた。

「……そういうことだったのか」低い声だった。「俺の魚は——」「……GLのせいで、全滅したのか」

庄屋は答えなかった。「……俺も、そっち側にいました」

村上は振り返った。庄屋を見た。長い間、見た。「なぜ、ここにいる」

「抜けました」

「どうして?」

「……優作さんに、出会ったからです。」

村上は優作を見た。優作は海を見ていた。「……変な男だな」村上が言った。

「そうですね」庄屋が答えた。

「ふん」村上は鼻を鳴らした。それから、コップを手に取って飲み干した。

「……庄屋」

「はい」

「お前が、俺に謝る必要はない」

庄屋は少し間を置いた。「……しかし」

「GLがやったことだ。お前がやったんじゃない」

庄屋はコップを持ったまま、俯いた。「……俺は、知っていたかもしれない」

「知らなかったんだろう」村上は庄屋の顔を覗き込んだ。

「でも——気づけたかもしれない」

村上は少し間を置いた。「……だから、ここに来たのか」

「はい」

「償いのつもりか?」

「……違います」庄屋は顔を上げた。

「村上さんの魚を、続けてほしいからです」

村上は庄屋を見た。

「GLがやったことを——」庄屋は続けた。「俺たちが、直したい」

沈黙。波の音が、続いている。

――――――

優作が口を開いた。「村上さん」

「なんだ」

「死んだ魚を、肥料にしたいと考えています。」

村上は少し間を置いた。「……廃棄するやつか」

「はい。あれを農家に届けたい。海に捨てるんじゃなく——土に返す」

村上は少し考えた。「……できるが」「なぜ知ってる」

「調べました」

「……本当に気持ち悪いな」

「すみません」

庄屋が笑いそうになる、……こらえた。

「欲しいのは、それだけか」村上が続けた。

「いいえ」優作は静かに言った。「陸上で養殖をやり直してほしい」

村上の手が、止まった。「……陸上?」「はい」「海じゃなく、陸で魚を育てるのか」「はい。水温を管理できる。サメが来ない。誰かが違法廃棄しても、関係ない」

村上は少し間を置いた。「……バカか、金がかかり過ぎる」「一緒に出します」「どうしてそこまでする」

優作は村上を見た。「村上さんは、魚を育てたい。俺は——育てた魚を、必要な場所に届けたい」「……それだけです」

村上はコップを持ったまま、しばらく黙っていた。波の音が続いていた。

「……陸上養殖か」「はい」「やったことがない」「村上さんの経験があれば、できます」「根拠は」「調べました」「……また気持ち悪いな」「すみません」

庄屋がとうとう笑った。「庄屋、」優作が少し睨んだ。

「すみません」

村上は庄屋を見た。それから優作を見た。それから、酒を飲み干した。

「……もう一本、開けるか」

「お願いします」

村上は立ち上がった。冷蔵庫から、もう一本取り出した。

「お前ら、本当に魚が好きか?」

優作は少し間を置いた。「好きです」

「どんな魚が好きだ」

「鯛です」

「庄屋は」

「俺はサバですね」

「……渋いな」

「サバの味噌煮が好きで」

村上は少し間を置いた。それから、小さく笑った。「……サバか」

「変ですか」

「変じゃない」

「……いつか、育ててみたい魚だ」

庄屋は少し間を置いた。「育てられるんっすか、サバって」

「難しい魚だ」

「なぜやりたいんっすか」

村上は少し間を置いた。「難しいから、やりたい」

庄屋は升を一口飲んだ。「……村上さんとこで育てたサバが食べたいですね」

「いつか食わせてやる」

村上はコップを上げた。今度は、乾杯した。

「……暁水産か」優作が静かに言った。

「名前、もう決めてたのか」

「はい」

「……勝手な男だな」

「そうですね」

「ふん」村上は鼻を鳴らした。でも——顔が、少し緩んでいた。

――――――

夜。軽バンで、坂道を上っていた。星が出ていた。海の上に、星が広がっていた。

庄屋が言った。「……優作さん」

「ああ」

「村上さんの全滅——GLのせいだったかもしれない」

「そうだな」

「俺、知らなかったっすよ」

「ああ」

「でも——」庄屋は窓の外を見た。「知らなかったじゃ、済まない気がして」

優作は少し間を置いた。「庄屋」

「はい」

「それが、お前がここにいる理由だ」

庄屋は少し間を置いた。「過去が武器になる、ですね」

「ああ」

「武器になるだけじゃなくて——」「……償いにもなりますか」

優作は答えなかった。

庄屋は窓の外を見た。夜の海が、星を映していた。目が、わずかに赤くなっていた。「……泣いてないですよ」

「知ってる」

「星が、眩しくて」

「そうか」

「長崎の星、明るいですね」

「ああ」

二人は少し、笑った。

「……ARK」優作は静かに言った。

『はい』

「GLの違法廃棄、証拠を集めてくれ」

『はい』『……すでに、始めています』

「いつから」

『村上さんがサメの話をした瞬間からです』

優作は少し間を置いた。「……先読みが、うまくなったな」

『優作と一緒にいると、人間が分かってきます』


夜の海に、波の音が続いていた。


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