第三章 第八幕 会議
ある夜。拠点に全員が集まっていた。
庄屋がノートPCを開いた。「……優作さん、一つ、いいですか」
「なんだ」
「ARKから、面白い情報が来ています」
全員が庄屋を見た。
「長崎の養殖業者です。村上雄二、五十四歳。十年以上、タイの養殖をやってきた。でも——」庄屋は少し間を置いた。「海水温の上昇で全滅した。サメに網を食い破られて全滅した。二度、全滅しています」
拠点が、静かになった。
「1億2000万の設備投資をしています。借金です。今、やめようとしています」
影山が言った。「……それは、大変っすね」
「大変どころじゃないよ」庄屋が続けた。「でも——この人の廃棄コストが、問題で」
真壁が口を開いた。「廃棄コスト?」
「死んだ魚の処理費用です。養殖をやっていると、必ず出る。それが経営を圧迫している」
優作はノートPCの画面を見た。「……ARK」
『はい』
「村上さんの廃棄量は」
『毎年、約四十トンです』
里美が「四十トン」と呟いた。
「その死んだ魚を——」優作は少し間を置いた。「肥料にしたい」
全員が優作を見た。凛が口を開いた。「……魚の肥料、ですか」
「そうだ。有機肥料として優秀だ。吉田さんの野菜が甘かった理由も、実はここにあるかもしれない」
真壁が静かに言った。「……優作さん」
「なんだ」
「それだけじゃないですよね」
優作は少し間を置いた。「……養殖を、陸上でやり直してほしい」
沈黙。
真壁が立ち上がった。「ちょっと待ってください」
「なんだ」
「水産業は農業より法的な問題が複雑です。漁業権、水質管理、食品衛生法——クリアしなければならない問題が山積みです」
「知っている」
「知っていて——」「お前がなんとかしてくれるんだろう?」
真壁は少し間を置いた。「……私のことを買い被りすぎです」
真壁は椅子に戻った。「……で、陸上養殖の資金計画は、どうするつもりですか」
「また国を巻き込む必要がある」
「国ですか?」
「新しい補助金の枠組みを作る必要がある。そのために、政治家が必要だ」
真壁は少し間を置いた。「……心当たりがあるんですか」
「今ARKが調べている」
『はい』『……坂本一馬、副官房長官。農林水産畑一筋。高知県出身』
凛が口を開いた。「……信用できる人ですか」
「まだ分からない」
「分からないのに、動くんですか」
「動いてみなければ、分からない」
凛は少し間を置いた。「……誰が村上さんに会いに行くんですか」
優作は庄屋を見た。「俺と庄屋で行く」
庄屋は少し間を置いた。「……俺ですか」
「お前はGLで水産の流通も見てきた」
「まあ、そうですけど」
「それと——」「……酒が強いから」
庄屋は少し間を置いた。「それが理由ですか」
「半分は」
「半分?」
「お前が必要だからだ」
庄屋の目が、わずかに赤くなった。「……それ、もっと早く言ってください」
影山が「また言った」と笑った。瀬戸も笑った。
里美がホワイトボードに向かった。マーカーを手に取る。「暁水産——検討中」と書いた。それから優作を見た。「検討中、まだ決定じゃないですね」
「ああ」
「真壁さんが法的な枠組みを作ってから、正式に動く」
「ああ」
「約束ですよ」
「約束だ」
真壁が静かに言った。「……一週間、時間をください」
「任せる」
「その間に、法的な問題を整理します」
「頼む」
真壁はノートPCを開いた。「それから——」「……村上さんに会う前に、私も資料を作ります。手ぶらで行くより、数字を持っていった方がいい」
優作は頷いた。「ありがとう」
真壁は少し間を置いた。「……優作さん」
「なんだ」
「次から、先に相談してください」
「わかった」
庄屋が小声で影山に言った。「……真壁、ちょっと怒ってる?」影山が小声で返した。「当たり前じゃないっすか」
拠点に、笑いが起きた。真壁だけは笑わなかった。でも——口元が、わずかに緩んでいた。




