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不器用な善意は、世界を再構築するAIに選ばれた 秘密結社ARK 世界征服の物語  作者: My little world
第ニ章 暁商店街

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幕間 面会室

 面会室は、狭かった。

アクリル板が一枚。椅子が二つ。それだけだった。

庄屋は椅子に座った。手が、膝の上で握りしめられていた。

ドアが開いた。

黒川が入ってきた。

拘置所の服を着ていた。それでも、背筋は伸びていた。顔には表情がなかった。いつもと同じ顔だった。

黒川はアクリル板の向こうの椅子に座った。庄屋を見た。

「……来たか」

低い声だった。

「来ました」

庄屋の声が、わずかに震えていた。

黒川は庄屋を見た。何も言わなかった。

「瀬戸を——」庄屋は続けた。「瀬戸に、仲間に何をしたか、分かってますか」

「分かっている」

「分かっていて、やったんですか」

「ああ」

庄屋の手が、膝の上で白くなった。

「……なぜですか」

「必要だったから」

「必要」庄屋の声が、上ずった。「あいつは——瀬戸は、何も——」

「お前たちの動きを止めるためだった」黒川は静かに言った。「感情的になるな」

「感情的に——」

庄屋は立ち上がりかけた。係員が動く気配がした。庄屋は、椅子に戻った。

拳が、膝を叩いた。一度。また一度。

「……俺は」庄屋は俯いた。「ずっと、あなたを見ていた」

黒川の目が、わずかに動いた。

「ギガ・リンクに入ったのも、あなたの側にいたかったからです」

「……なぜだ」

「分かっていたはずです」黒川は静かに言った。「お前が片桐側の人間だということは」

「そうじゃない」

庄屋は顔を上げた。目が赤かった。

「そうじゃないんです」

黒川は庄屋を見た。

「俺は——」庄屋の声が、割れた。「俺は、あなたが——どんな人間か——見たかった」

沈黙。

「祖父から、もらったんです。二十歳の時……」「母の日記を」

黒川の体が、止まった。

動かなかった。

アクリル板の向こうで、ただ、止まっていた。

「母は——霧島華恋は——」庄屋の声が、震えていた。「あなたのことしか、書いていなかった」

黒川は何も言えなかった。

「川のこと。Z1のこと。別れた夜のこと」

庄屋の目から、涙が落ちた。拭わなかった。拭う余裕がなかった。

「俺は——ずっと——あなたが——どんな人間か——見たかった……」「それだけで——ギガ・リンクにいた」

「……庄屋」黒川の声が、かすかに変わった。

「許せなかった」庄屋の声が、上ずった。「瀬戸への暴力が——許せなかった……」「あなたが——あなただから——」

止まれなかった。

「あなたが——俺の——」

言葉が、崩れた。

「俺の父親だから——許せなかった——」

面会室が、静止した。

黒川は、庄屋を見た。長い間、見た。

アクリル板越しに。

庄屋の顔を。華恋に似た、その顔を。

「……華恋の……」

黒川の声が、出た。

かすかな声だった。三十年間、誰にも向けなかった声だった。

「……子」

「……俺の……」

そこで、止まった。

言葉が、続かなかった。

続けられなかった。

庄屋は俯いた。肩が、震えていた。

黒川はアクリル板を見た。自分の手が映っていた。

拘置所の、狭い面会室に。

春の光が、窓から差し込んでいた。

川が、どこかで流れている気がした。


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