第十幕 日曜市の準備
拠点に全員がいる。里美がホワイトボードの前に立っている。
「日曜市、やりましょう」
「トキさんが教えてくれたの。昔、この商店街で日曜市をしてたんですって」
瀬戸が尋ねた。「いつからなくなったんですか」
「だんだん寂れて、十年くらい前からなくなったんだって」
影山が言った。「祭りみたいにしましょうよ」
「うん」優作が言った。「俺たちの祭りを始めよう」
里美は頷いた。ホワイトボードに書いた。「暁商店街……日曜市——第一回」
――――――
翌日、里美が女性を連れてきた。
「彼女、私の元同僚。今度の祭りに参加してくれるそうよ」
二十代後半。ポニーテール。小柄で優しそうな人。
「はじめまして、中島ひかりです。よろしくお願いします」
影山が「普段仕事は何してるんですか」と聞いた。
「保育士です」
影山が首を傾げた。「保育士? どうして日曜市に?」
「私、クレープが得意なんです」少し笑った。
「里美さんに、日曜市に屋台を出さないかって誘われて」
庄屋が言った。「保育士が、クレープ屋。いいですね」
凛がひかりを見て言った。「子供たちに人気が出そうですね」
「毎日子供と遊んでますからね」ひかりは笑った。「子供はお任せください」
優作はひかりを見た。「一つ聞いてもいいですか」
「はい」
「クレープ作り、好きですか」
「……大好きです。子供たちが、美味しそうに食べているのを見るのが好きです」
優作は小さく頷いた。「それだけ分かれば十分です」
里美がホワイトボードに書いた。「中島ひかり——クレープ屋」
――――――
日曜市の準備が始まった。
真壁が許可申請を出した。「今回の手続きは簡単でした。三日で許可が出ました」
影山は時々仲間と集まる喫茶店で、バイク仲間に声をかけた。
「カスタム展示、バイク並べようぜ。絶対映える」
鈴木が興奮した顔で、源に言った。「一箱古本市、やってみたいです」
「祭りだ。やろう」
「いいんですか」
「何度も言わせるな」
タエが鍋を引っ張り出してきた。「いつもの倍作るけど、……なんだい、文句ある?」
「ありません」凛は苦笑した。
トキが黒板を指さして、「あれを祭りの看板にしたい」と言った。
影山が「アーケードの入り口に持っていきます」と答えた。「頼むよ」トキが小さく笑った。
吉田がトラックに野菜を積んできた。「タエちゃん、多めに持ってきたよ」
「ありがとう、義雄さん」
「売れ残ったら持って帰るから」
「残らないよ」タエは笑った。
立花は、今日も無口だった。ただ、シャッターは全開にした。
――――――
前日の夜。ひかりが拠点に来た。「あの、明日のクレープ、試作したんですけど、食べてもらえますか」
ひかりがタッパーを開けると、甘い香りが拠点の会議室を包んだ。
全員の顔が上がる。「普通のクレープと、吉田さんの野菜を使ったものを作ってみました」
全員が一つずつ取った。しばらく、静かだった。
瀬戸が口を開いた。「……うまい」
「本当ですか? ありがとうございます」
庄屋が言った。「甘い。中の野菜が甘い」
「ですよね、吉田さんの野菜です」
影山が言った。「明日、俺、買いに行きます」
凛が静かに言った。「子供たち、喜ぶね」
ひかりは嬉しそうに微笑んだ。
優作はクレープを食べ終えて、言った。「……明日、楽しみにしています」
「……頑張ります」
里美が笑った。「頑張らないで、楽しんで」
「はい」
ひかりはタッパーを鞄にしまい、「じゃあ、明日よろしくお願いします」と言って拠点を後にした。
会議室のドアが閉まった。影山が言った。「明日が楽しみですね」
「そうね」里美が答えた。
庄屋が聞いた。「まだクレープありますか」
「もう帰りましたよ」
庄屋は肩を落とした。拠点に、笑いが起きた。




