第九幕 吉田の野菜とスーパーカブ
Satioの拠点
優作は 数字を見ていた。
おかしい、「…ARK 」
『はい』
「タエの店、原価率 低過ぎないか?」
「はい、市場価格の三分の一です」
「仕入は? 」
『 暁商店街から、車で20分ほどの農家です。取引記録がありません』
「個人的付き合いか」
『はい、おそらく吉田義雄、78歳、専業農家です。』
「……タエさんは特別安いとは思ってないんだろうな」
『はい、おそらく』
その日の昼、優作はタエの店に行った。独特の惣菜。にくじゃが、切り干し大根、
かぼちゃの煮物、コロッケ、たまごやき、
にくじゃがを買って、外のベンチで食べた。
「え?」止まった。
甘い、じゃがいもが、にんじんが、普通の野菜ではない……。
優作は、ゆっくり食べた。
食事後、店に入り「タエさん」
「なんだい」
「野菜が甘い」
「・・・・・・昔からの知り合いから、仕入れているのよ。市場に出せない形の悪いやつ」
「吉田さんとこの野菜はねぇ、他のとこと比べて甘いのよ、」
「それは、特別なことだとおもいますか」
タエはきょとんとして「特別?普通でしょ」
「……そうですか」
「何?変なこと聞くわねぇ」
「いえ」
優作は拠点にもどりながら、小さく「ARK」
『はい』
「吉田さんに、会いにいく」
『いつですか?』
「今からだ」
優作は吉田の農家を訪ねた。田んぼと畑がひろがっている。
ちょうど真ん中に大きな古い家がぽつんと立っていた。
「こんにちは、吉田さんですか?」
畑に水をやっていた老人が振り向いた。「……誰だ」
「暁商店街でお仕事させてもらっています。
タエさんにはいつもお世話になっております。」
吉田が一言「なんの用だ」
「最近タエさんの惣菜屋でお客が増えています。」
「そうか」
「吉田さんの野菜のおかげです。」
吉田はフンと笑った「大袈裟だ」
「いえ、いえ、先日、バイクで遠くからきたお客さんが……」
優作はスマホの画面を見せた。
「タエの惣菜、こんな甘い野菜食べたことない。また来る」
「SNSで大評判になっています。」
吉田は何度も画面をみた。何度も
「そうかい」
優作は頷いて「はい、今日はお願いがありまして、」
「なんだ」
「我が社で正式な取引をさせて頂きたくて伺いました。
ぜひ適正価格で取引させてください」
「……形の悪い商売にならん野菜を、タエちゃんに安く卸してただけだ」
吉田は眉をひそめた。「タエちゃんが困るだろう」
優作は手を横に振りながら、「いいえ、タエさんの所には今まで通り、
納めていただいて、差額は我が社が払います。」
吉田は優作を見つめた
「……何が狙いだ」
「吉田さんの野菜が、暁商店街の心臓になると思います。」
吉田は畑のほうに足を運び、一言だけ、
「来週もっていく、タエちゃんによろしく」
それだけ言うと、吉田は作業を始めた。
「ありがとうございます。」優作は頭を下げ、吉田邸を後にした。
拠点にもどると、影山が言う「スタッフ募集にカブさんが応募したいそうです。」
「カブさん?」
「俺のバイク仲間っす。鈴木誠司。ホンダのカブ乗りだから、カブさんです。」
窓の外に、赤いスーパーカブがとまっていた。隣には、細身の男が立っている。
二十代後半、メガネに少し猫背、髪の毛が少し長い。
「あの、影山さんに聞いたんですけど、その、えっと、ここってスタッフ募集しているって、その、えっと、聞いたんですけど、その、よかったら、あの、私、役に立てるかなと思ってその、来てみたんですが、あの、ごめんなさい、迷惑でしたよね」
優作は一言、「何が出来る?」
「あの、本が好きです。」
「本を読むのか?」
「はい、あの、古い本も好きです。えっと、ジャンルは文学、哲学、郷土史、あと、
えっと、その、理工系も——」
「青文堂にいったことは?」
鈴木の目が変わる「さっき行ってきました。本棚、すごいです。昭和の郷土史が、
あそこまで揃っている古本屋みたことないです。特に——」
「ちょっと待って」影山が止めた。「カブさん始まった」
鈴木は口を閉じた。「すいません。つい、」
「ついて来い」優作は促した。
「あの、どちらに?」
「青文堂だ」
青文堂に入ると、源さんが本を読んでいた。
「源さん、紹介したい人がいます。」
源は頭を上げ、優作の隣の男を見た。
鈴木は会釈をしたが、源は値踏みをするように鈴木を見た。
「はじめまして、あの、鈴木といいます。その、よろしくお願いします。」
「君は本が好きか?」源はたずねた。
「はい」
「古本の目利きはできるか?」
「やったことはないですが、でも…….やってみたいです。」
「優作さん……どこで見つけてきたんですか?」
「影山のバイク仲間です」
源は少し首をかしげた「バイク乗りか」
「カブですが、」
「……カブ?」
「はい」
「なぜカブ?」
鈴木はうれしそうに「それは、カブの設計思想に感銘をうけまして、
燃費も良く頑丈で、エンジンオイルの代わりに天ぷら油で走ったと言う、
逸話があるくらいで、沢山荷物も乗り——」
「ちょっと待て」優作は止めた。
「すいません。」鈴木は申し訳なさそうにあやまった。
「ハハハ。」源は笑った。
「なるほど、すこし、手伝ってみるか?」
「いいんですか?」
「一週間だ、使えなければ、わかるな?」
鈴木は丁寧にお辞儀をして、「ありがとうございます。一生懸命はたらきます。」
そう言って目を輝かしていた。
「鈴木君でいいんだよな?」
鈴木は少し迷ったように「はい、でも、カブさんと呼ばれています。」
「誰に?」源はたずねた。
「バイク仲間です」
「鈴木なのに?」
「カブさんって呼ばれています。すずきなのに」
ふたりとも、口角があがっていた。
優作は、源に挨拶した。「お邪魔しました。」
「優作さん」
「はい」
「…….いい若者を連れてきてくれた」
優作は少し笑って「よかったです」しずかに店を後にした。
拠点に戻ると、影山がまっていた。「カブさん、どうでしたか?」
「置いてきた」
「今日からですか?」
「源さんが気に入ったようだ」
影山は少し間をおいた。「カブさん本が好きだから、気が合うとおもった。」
少し笑った。
里美がホワイトボードにマーカーで、「鈴木誠司—青文堂」と書いた。




