第十一幕 日曜市
日曜日、当日。
夜明け前から、アーケードに人が集まり始めた。
吉田がトラックに野菜を満載して乗りつけた。
タエが真っ赤な顔をして、大きな鍋を運ぶ。「誰か手伝って」
影山と瀬戸が飛んできた。
ひかりがクレープの屋台を組み立てようとしていた。鈴木が手伝う。「意外と大変だね」
「ありがとう、鈴木さん」
「カブさんです」
「え?」
「カブさんって呼んでください」
「はぁ」
「鈴木ですけどね」
「………」
ひかりにはカブさんの意図が分からなかった。
――――――
立花モーターズの前に、バイクが並んだ。Z750RS、CB400four、GSX400。さらに、立花のZ1も。
影山のバイク仲間達が、ヘルメットを脱いで集まってくる。
「今日は祭り楽しもう。クレープがやばいぞ」
影山はバイク仲間にそう言った。
鈴木が一箱古本を並べた。源も隣にもう一箱。二人は黙々と、背表紙を丁寧に揃えた。
トキが黒板に書いた。「暁商店街・日曜市 本日開催」
朝九時、アーケードに人が流れ始めた。
最初は近所の人間だった。
「あれ?」「なんかやってる」「日曜市?」
やがて、バイク乗りが全国から集まってくる。
「SNSでミーティング呼びかけてみました」影山が言った。
「久しぶり」「甘い野菜が食えるって聞いた」「マジうまいから、クレープ」「そのために百キロ走ってきた」
「相変わらずだな」影山は笑った。
立花が出てきた。「……」
一瞥だけして、店に引っ込んだ。影山がまた笑った。
――――――
タエの惣菜の前に、列ができた。
「SNSの通りだ」「本当に甘い」「どうしてこんなに甘いの?」
吉田が野菜を並べていた。
「これ、タエの惣菜の野菜?」
「そうだよ」
「売ってください」
「もちろん。売り物だよ」
吉田の顔が、少しだけ緩んでいた。
ひかりのクレープ屋には、子供たちが集まった。
「おねえちゃん、クレープちょうだい」
「はーい、なに食べる?」
「あまいの」
「全部甘いわよ」
「一番あまいの」
ひかりは笑った。「じゃあ、とびきりのつくるね」
「おまたせしました」
一口食べる。「あまい、おいしい」
それを見ていた子供たちが一斉に走ってくる。「ちょーだい」「わたしも!」
「一つずつね」
ひかりは笑いながら、クレープを焼き続けた。
里美が来た。「楽しそうね」
「本当に楽しいです」ひかりは手を動かしながら答えた。
鈴木の一箱古本に、人が集まった。「これ、掘り出しもんじゃないですか」
「そうなんです」
「お客さん、お目が高いですね」
「昭和十年代に書かれた郷土史で、この地域の——」
「いくらですか?」
「本当は売りたくないですが、祭りです。お売りします。でも、この本は実は——」
源が隣から言った。「カブさん」
「はい」
「話が長い」
「あ、すいません。五百円です」
客が笑った。鈴木も笑った。
――――――
昼時、アーケードが人で溢れていた。
この日もトメさんが来た。「賑やかだねぇ」
タエが言った。「そうだねぇ」
「昔みたいだねぇ」
「楽しいねぇ」
二人は並んで、アーケードを眺めていた。




