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不器用な善意は、世界を再構築するAIに選ばれた 秘密結社ARK 世界征服の物語  作者: My little world
第ニ章 暁商店街

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第九幕 吉田の野菜とスーパーカブ

拠点。

優作はノートPCの前で、ARKが出した数字を見ていた。

「……ARK」

『はい』

「タエの店の原価率、低すぎないか」

『はい。市場価格の三分の一です』

「仕入れ先は」

『暁商店街から車で二十分ほどの農家です。ただし——取引の記録がありません』

「個人的な付き合いか」

『おそらく。吉田義雄、七十八歳。専業農家です』

優作は少し間を置いた。「……タエさんは、特別安いとは思ってないだろうな」

『はい。おそらく、思っていません』

――――――

その日の昼、優作はタエの店に行った。

にくじゃが、切り干し大根、かぼちゃの煮物、コロッケ、たまごやき。

にくじゃがを買って、外のベンチで食べた。

一口。

手が止まった。

じゃがいもが甘い。にんじんが甘い。市場で見るものとは、違う甘さだった。

優作は、残りをゆっくり食べた。

食べ終えて、店に入った。「タエさん」

「なんだい」

「野菜が甘い。果物のようだ」

タエは笑った。「昔からの知り合いから仕入れているのよ。市場に出せない、形の悪いやつ」

「吉田さんとこの野菜はねぇ、他のとこと比べて甘いのよ」

「それは、特別なことだと思いますか」

タエはきょとんとした。「特別? 普通でしょ」

「……そう…ですか」

「何? 変なこと聞くわねぇ」

「いえ」

――――――

優作は拠点に戻りながら、小さく呟いた。「……ARK」

『はい』

「吉田さんに、会いに行く」

『いつですか』

「今からだ」

――――――

優作は吉田の農家を訪ねた。

田んぼと畑が広がっている。ちょうど真ん中に、大きな古い家がぽつんと立っていた。

「こんにちは。吉田さんですか」

畑に水をやっていた老人が振り向いた。「……誰だ」

「暁商店街で仕事をさせてもらっています。タエさんには、いつもお世話になっております」

吉田は一言。「なんの用だ」

「最近、タエさんの惣菜屋にお客が増えています」

「そうか」

「吉田さんの野菜のおかげです」

吉田はフンと笑った。「大袈裟だ」

「いえ、いえ。先日、バイクで遠くから来たお客さんが——」

優作はスマホの画面を見せた。

『タエの惣菜、こんな甘い野菜食べたことない。また来る』

「SNSで大評判になっています」

吉田は画面を見た。何度も見た。

吉田は口角をあげた。

「そうかい」

優作は頷いた。「はい。今日はお願いがありまして」

「なんだ」

「我が社で、正式な取引をさせてください。適正価格で」

「……形の悪い、商売にならん野菜を、タエちゃんに安く卸していただけだ」

吉田は眉をひそめた。「それに…タエちゃんが困るだろう」

優作は手を横に振った。「いいえ。タエさんのところには、今まで通り納めてください。差額を我が社が払います」

吉田は優作を、じっと見つめた。

「……何が狙いだ」

「吉田さんの野菜が、暁商店街の心臓になると思っています」

「価値あるものは、その価値ある値段であるべきです。」

吉田は畑のほうに足を向けた。それから、一言だけ言った。

「来週、持っていく。タエちゃんによろしく」

それだけ言うと、作業を始めた。

「ありがとうございます」

優作は頭を下げて、吉田の家を後にした。

――――――

拠点に戻ると、影山が待っていた。

「スタッフ募集に、カブさんが応募したいそうです」

「カブさん?」

「俺のバイク仲間っす。鈴木誠司。ホンダのカブ乗りだから、カブさんです」

窓の外に、赤いスーパーカブが止まっていた。隣に、細身の男が立っている。二十代後半。メガネ、少し猫背、髪が少し長い。

「あの、影山さんに聞いたんですけど、ここってスタッフ募集してるって、その、聞いたんですけど、あの、よかったら、私、役に立てるかなと思って、その、来てみたんですが、あの、ごめんなさい、迷惑でしたよね」

優作は一言。「何ができる」

「あの、本が好きです」

「本を読むのか」

「はい、あの、古い本も好きです。えっと、ジャンルは文学、哲学、郷土史、あと、えっと、その、理工系も——」

「青文堂に行ったことは」

鈴木の目の色が変わった。「さっき行ってきました。本棚、すごいです。昭和の郷土史が、あそこまで揃っている古本屋、見たことないです。特に——」

「ちょっと待って」影山が止めた。「カブさん、始まった」

鈴木は口を閉じた。「すいません。つい」

「ついて来い」優作は促した。

「あの、どちらに?」

「青文堂だ」

――――――

青文堂に入ると、源が本を読んでいた。

「源さん。紹介したい人がいます」

源は顔を上げ、優作の隣の男を見た。

鈴木は会釈をした。源は値踏みをするように、鈴木を見た。

「はじめまして。あの、鈴木といいます。その、よろしくお願いします」

「君は、本が好きか」源は尋ねた。

「はい」

「古本の目利きはできるか」

「やったことはないですが、でも——やってみたいです」

「優作さん、どこで見つけてきたんですか」

「影山のバイク仲間です」

源は少し首をかしげた。「バイク乗りか」

「カブですが」

「……カブ?」

「はい」

「なぜカブ」

鈴木は嬉しそうに言った。「それは、カブの設計思想に感銘を受けまして、燃費も良く頑丈で、エンジンオイルの代わりに天ぷら油で走ったという逸話があるくらいで、荷物もたくさん乗り——」

「ちょっと待て」優作が止めた。

「すいません」鈴木は申し訳なさそうに謝った。

源が笑った。「ハハハ」

「なるほど。……少し、手伝ってみるか」

「いいんですか」

「一週間だ。使えなければ、分かるな」

鈴木は丁寧にお辞儀をした。「ありがとうございます。一生懸命働きます」

そう言って、目を輝かせていた。

「鈴木くんでいいんだよな」

鈴木は少し迷った。「はい、でも、カブさんと呼ばれています」

「誰に」源が尋ねた。

「バイク仲間です」

「鈴木なのに?」

「カブさんって呼ばれています。鈴木なのに」

二人とも、口角が上がっていた。

――――――

優作は、源に挨拶した。「お邪魔しました」

「優作さん」

「はい」

「……いい若者を、連れてきてくれた」

優作は少し笑った。「よかったです」

静かに、店を後にした。

拠点に戻ると、影山が待っていた。「カブさん、どうでしたか」

「置いてきた」

「今日からですか」

「源さんが気に入ったようだ」

影山は少し間を置いた。「カブさん、本が好きだから、気が合うと思いました」

少し笑った。

里美がホワイトボードにマーカーで書いた。「鈴木誠司——青文堂」


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