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第二幕 死因の炙り出し

翌朝。


影山は一人で、暁商店街を歩いた。


優作に言われたことは一つだけだった。


「見てこい」


それだけだった。


――――――

アーケードの入口に立つ。


春の朝の光が、錆びたトタン屋根の隙間から、まだら模様で地面に落ちている。


シャッターが、左右に並んでいる。


影山は数えながら歩いた。


開いている店。閉まっている店。


閉まっている店の方が、多かった。


――――――

惣菜屋「タエの店」。


シャッターは開いている。だが、客がいない。


タエが一人で、大きな鍋をかき混ぜている。


影山が覗くと、タエは顔を上げた。


「何か買うの?」


「あ、いえ、ちょっと見てて」


「冷やかしはお断りだよ」


「すみません」


影山は頭を下げて、先へ進んだ。


――――――

青文堂。


古本屋だった。


ガラス張りの引き戸の向こうに、天井まで本棚が並んでいる。


背表紙の色が、全部少しずつ褪せている。


引き戸に手をかけた。鍵がかかっていた。


開店時間を確認する。午前十一時。まだ一時間ある。


影山は、ガラス越しに店の奥を覗いた。


薄暗い。


だが、奥のカウンターに、細身の男が座っていた。


本を読んでいた。


客が来ても、気づかないような読み方だった。


――――――

影山はARKのイヤホンに触れた。


「……ARK。この商店街、何軒ある?」


『全部で四十三軒です』


「開いてるのは?」


『現在、九軒』


「九軒か」


『三年前は二十一軒でした』


影山は立ち止まった。アーケードの奥を見る。


「……三年で、半分以下か」


『はい。廃業の主な理由は三つです。


後継者がいない。


借入の借り換えができなかった。


家賃が払えなくなった』


「全部、金の話じゃないですか」


『いいえ』


影山は耳を疑った。「違うんですか」


『お金は結果です。原因は——諦めです』


――――――

アーケードの中ほどに、ベンチがあった。


古いベンチだった。ペンキが剥げて、木の地が出ている。


影山はそこに腰を下ろした。


春の風が、アーケードの奥から吹いてくる。


埃と、かすかな食べ物の匂い。


「……諦め、か」


呟いた。誰も答えない。


ただ、シャッターが並んでいる。


――――――

その時。


青文堂の引き戸が、音もなく開いた。


細身の男が出てきた。眼鏡。


白いシャツ。背筋が伸びている。


手に、箒を持っていた。


開店前に、店の前を掃く。それだけのことだった。


だが、その掃き方が、丁寧だった。


端から端まで。アーケードの床の、自分の店の前だけ。


影山は黙って見ていた。


男は影山に気づいた。一瞬、目が合った。


男は何も言わなかった。ただ、箒を動かし続けた。


――――――

影山は拠点に戻った。


優作は、ノートPCの前に座っていた。


「どうだった」


「……九軒しか開いてませんでした」


「知ってる」


「三年で半分以下です」


「知ってる」


影山は少し間を置いた。


「ARKが言ってました。原因は諦めだって」


優作は画面から目を離さなかった。「そうだ」


「……どうやって、諦めを直すんですか」


優作は少しだけ間を置いた。


「直さない」


影山が顔を上げる。


「諦めた人間を、説得はしない。ただ——」


一拍。


「諦めなかった人間がいればいい」


――――――

里美が、コーヒーを二つ持って入ってきた。


一つを優作の横に置く。もう一つを影山に渡す。


「青文堂の源さん、今日も開けてたわよ」


優作は、コーヒーを一口飲んだ。「知ってる」


里美は少しだけ笑った。「行くの?」


「ああ」


「何て言うつもり?」


優作は答えなかった。


里美はそれ以上聞かなかった。


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