第十六章 第十二幕 命
一年後。
暁ロボット工場。
旧自動車組立工場だが、新しい機材や施設を増設した工場は、新品のいい匂いがした。
沢山の報道陣が会場に押し寄せた。
暁グループCEOの片桐里美は壇上に上がり、晴れやかにスピーチをした。
「皆様、本日はお忙しい中、お越しいただき、ありがとうございます……」
風香は、工場の責任者の一人として、会場に来ていた。
瀬戸を見かけると、少し青い顔をしていたので、話しかけた。
「大丈夫ですか?」
「やぁ、風香。いや、少し緊張しているだけだよ」
瀬戸は小さく深呼吸して、風香に笑いかけた。
話していると瀬戸の緊張が解けていくのが分かった。
「そう言えば、凛さんは? めずらしいですね、いつも一緒なのに」
瀬戸は少しばつが悪そうに答えた。
「いやね、ここだけの話だよ。ちょっと病院に行っているんだよ」
「病院? どこか悪いのですか?」
「そうじゃなくて……」
「……」
「そ、そうか。そうですか、おめでとうございます」
「まだ確定じゃないんだよ。本当は今日、休みたかった。しかし、ここの最高責任者として、休めないからね」
風香は微笑んだ。
「できる限りバックアップしますよ」
「ありがとう」
里美のスピーチが終わった。
里美の合図でBesが姿を現した。右手には水の入ったコップを持っていた。
Bes 一号機は、会場を見渡して話し始めた。
『みなさん。今日は私たちに会いに来てくれてありがとう』
『里美様。スピーチ、お疲れ様でした』
Besは右手のコップを里美に差し出した。
会場はどよめいた。
Besが差し出したコップ。その水面には、波紋一つ立っていなかった。
会場が大きな拍手で包まれる中、瀬戸のスマホが震えた。
スマホの画面には凛の文字が出た。
瀬戸は電話に出た。
「……そうか。うん」
瀬戸は頭を上げた。
風香と目が合った。
瀬戸は口角を上げ頷いた。
風香も瀬戸に微笑んだ。
その時、ARKが風香に耳打ちした。
『……ダニエルの様子がおかしい』
「え、あのアメリカの研究所の?」
『はい』
風香は自分のスマホを見つめた。
「……」
ダニエルに電話をかけた。
「風香かい? 最後に話ができてよかった。これから自分自身の責任を取ろうと思うよ」
「責任? ちょっと、待ちなさいよ」
「最後に世界を救うことができてよかった。ありがとう」
ダニエルは電話を切った。




