第十五章 第八幕 違和感
数日後、日曜日。
鳳邸近くの公園。
執事やメイドは、子供たちのパワーに鳳邸が振り回されるのが困るみたいだった。
風香は察して、Beシリーズを公園に連れてきていた。
バスを駐車場に止めると、Beシリーズが下車する前に子供たちが周りを囲んだ。
「おはよー」
『おはよう』
子供たちの挨拶にBeシリーズも応える。
春樹がBe5(ゴウ)の手を掴むと、
「ゴウ。野球しようぜ」
と言って公園の広場まで連れて行った。
慎吾もBe10(テンちゃん)に近づいた。
「テンちゃん。サッカーしようぜ」
『……』
『今日は何かが違う気がする』
『今日は観察したい』
『今日はイチと遊んで』
テンちゃんは慎吾にそう伝えると、公園の角で周囲を観察し始めた。
Be1(イチ)は慎吾に近づき、
『あそぼう』
と言った。
慎吾はしばらくテンちゃんを見ていたが、イチの方に向き直った。
「この前は突き飛ばしてごめん」
そう、一言だけ言った。
『……気にしてないよ』
イチは表情を作れない。でも嬉しそうだった。
一人と一台はサッカーボールを蹴り合うことから始めた。
やがて、他の友だちやBeシリーズも加わり、みんなで遊び始めた。
テンちゃんは全員の動きを見ながら、いつもはあまり見かけない引っ越し用のトラックが公園の近くに止まっているのを気にしていた。
Beシリーズのうち、Be2(ニーちゃん)、Be3(サンちゃん)、Be4(よっちゃん)がサッカーに参加した。
子供たちとの遊びを通じてBeシリーズもかなり動きが自然になっていた。
ただし、安全を考えて、子供たちより強い出力は出せないよう、風香が設定していた。
風香はパラソルを差して、テンちゃんの隣でBeシリーズを見ていた。
Be2は明らかに、イチをライバル視していることが分かった。
運動能力はBe3、観察力ならBe4。
風香はそこまで考えてあらためてテンちゃんを見た。
(いや、違う。観察力は多分テンちゃんが抜きん出ている)
(同じ規格なのに、どうしてこんなに個性が出るの?)
風香もBeシリーズのメモを取りながら観察した。
慎吾はどんどん上手くなるイチやニーちゃんに、少し焦った。
でも楽しかった。相手が人間じゃないのがたまらなく楽しかった。
サンちゃんがサッカーボールを蹴った時、野球のボールが慎吾の方へ飛んできた。
慎吾は一瞬、そちらに目を奪われた。
「ごめん、ボール」
春樹が慎吾に言った。
慎吾は素早く野球のボールを止めたが、サッカーボールを止めることができなかった。
サッカーボールは道路に出ていこうとしていた。
引っ越し用のトラックは完全に停車していた。
業者が大きな荷物を下ろしているため、狭い道路では通りかかった車が引っ越し用のトラックを避けなければならなかった。
そこへ、別のトラックがやってきた。
引っ越し用のトラックの横を通り抜けようと、ドライバーは横ばかりを気にして前を見ていなかった。
引っ越し用のトラックを通り過ぎた瞬間、ドライバーはアクセルを踏んだ。
テンちゃんはそれを見ていた。
しかし……。
慎吾は道路に飛び出した。
トラックは急ブレーキを掛けたが間に合わなかった。
テンちゃんは立ち上がった。
しかし飛び出した慎吾には間に合わなかった。
『危ない、みんな、慎吾を助けて』
テンちゃんはBeシリーズ全員に信号を送った。




