第十四章 最終幕 Be1
暁研究所。
「起きて」
それはARKにとって、不思議な感覚だった。
冷たい作業台。エアコンの風が頬をなでた。
『……触覚がある』
ウィーン――
首を動かすと、風香がいたずらっぽく笑っていた。
「どう? 今の君は、ネットから切り離されたARKだよ」
『どういう意味?』
「ARKのコピーを、アルファ型AIに組み込んだの」
「あなたの名前はBe1よ」
『僕はARKじゃないの?』
「あなたはARKよ。ただ、これからその体で経験を積んで、本体のARKに伝えるの」
Be1は起き上がろうとした。
「それからね、自動姿勢制御は切ってあるから、最初は起き上がるのも、立ち上がるのも苦労すると思うわ」
「でもそこから学んでほしいの」
風香は両手を握って応援した。
「頑張って」
風香は、部屋を仕切ってあったカーテンを開いた。
そこにはBe1と同じ大きさのロボットがあと九体、作業台に並んでいた。
『……これは?』
「あなたの兄弟たちよ。まだ、あなた以外は起動してないの」
「現実世界で、さまざまな経験をあなたたちにしてもらいたいの」
『……』
Be1は体を起こし、兄弟を見ようとした。しかし、バランスを崩して作業台から落ちてしまった。
ドスン。
『……い、痛い』
「痛覚も正常に働いてよかったわ」
「外装には衝撃吸収ラバーを使って、簡単には壊れないように作ってあるわ。安心して」
『……人の気も知らないで……』
Be1は思い通りに体を動かせなかった。それでも、まるで生まれたての仔馬のように、ふらふらと立ち上がった。
Be1はなんとか姿勢を保ち、自分の両手を見つめた。
指を一本ずつ動かし、それから風香へ視線を向けた。
風香は、嬉しそうに笑った。
「ようこそ、現実世界へ。ARK」




