第十四章 第九幕 現実世界
暁研究所。三階自室。
風香はメイドが掃除している姿を観察していた。時にはキッチンの椅子、時には作業机の椅子に移りながら、メイドの動きを目で追った。
(何が違うのよ)
風香は、鋭く観察を続けた。手の動き、目線、物の選別。そして思った。
(ARKを使えばいいのでは?)
「ARK」
『はい』
「あなたなら、きちんと片付けることが出来たんじゃないの?」
『無理ですね。僕は物の硬さやボディの重量など、必要な数値は知っています。しかし、試作機のボディを現実世界で動かした経験がありません。以前のボディとは、重量も関節の出力特性も全く違います』
「だから仮想現実で何度も動かしたじゃないの」
『仮想現実が不十分なのです』
『仮想現実には、風香が想定して入力した条件しか存在しません』
「私が入力していないことは学習できないってこと?」
『はい。現実世界には、入力されていない条件がいくらでもあります』
風香は、どうすればARKに現実世界を経験させられるのか考えた。
「例えば、あなたに出力を抑えた子供のようなボディを与えて、現実世界で生活してもらえば、現実世界のデータを集められる?」
『それは可能だと思います』
「ふーん」
『……それは、僕に体をくれるってこと?』
「そうなるわね。最初は子供の体からだけど」
『……』
「これから現実世界でデータを取ってもらうわ」
『まず何から始めたらいいの?』
「完成したら、まずこの部屋の片付けからね」
『……』
「……現実世界のデータ収集よ」
風香は少し悪い顔で笑うと、早速ARKの子供型ボディを設計するため、端末を立ち上げた。




