第十四章 第八幕 アンドロイド開発
数週間後。暁研究所。
風香は以前、ARKに現実世界の体を作ったことがあった。
しかし、風香の周りには、メイドや執事がいるし、
ARKは呼べばいつでも意思疎通ができるので現実世界の体を持たせる必要はなかった。
ところが、ある依頼を受けて、フィジカルAIについて考える必要が出てきた。
それは、熟練作業を担う人材の不足を、どうにかしてほしいというものだった。
人手不足で、何かを始めたくても人が集まらない。集めても素人ばかり。
これではやりたいことが先に進まない。なんとかならないかという話だった。
同時に、風香にも問題が発生していた。
今、風香は一週間の大半を研究所で暮らしている。しかし、そうなると、
家事をしたことがない風香にとって、家事は大問題だった。
時々訪ねてくる藤三郎の小言を聞くたびに、風香は鳳家に帰りたくなった。
「特に掃除がね、苦手だな」
風香はため息をついた。
開発は主に仮想現実の中で行われた。自律歩行や、
家事のための動きは仮想現実の中で高速にシミュレーションし、
何万時間分ものトレーニングを行った。
「これで理論上二足歩行はできる」
「……以前のARKの体よりはうまく出来たと思う」
『また僕に体をくれるの?』
ARKはそう風香に尋ねたが風香は首を横に振った。
「これには、個別にアルファ型のAIを積んで、あなたは補佐に徹して欲しいの」
風香は幾何学模様のモニター画面を見ながら話した。
「でもね、これだけでは熟練者にはなれないなぁ」
「……別のアプローチをしてみる」
風香はその分野の熟練者が書いた本や資料を端末に読み込ませ、仮想現実の中であらゆるパターンを試した。効果の高い動きだけを抽出し、熟練に必要な時間を大幅に短縮していった。
そして、ようやく試作機を作り始めた。
風香がプログラムと設計図を入力した後は、ロボットアームとARKが製作を担当した。
「ふう、これで楽ができる」
風香は喜んだ。
試作機が完成すると、さっそく研究所三階の自室で試してみた。
ところが、試作機は、ゴミと必要なものを区別できなかった。
仮想空間では、すべてが数値どおりに動いた。
しかし、現実世界は違った。
風香の書きかけの図面とポテチの袋を同じゴミとして処理しようとした。
片付ける際には、大切な基板の上に重い工具を積み上げ、壊してしまった。
さらに、分厚い技術書を棚に収めようとしたが、本が大きすぎて背表紙が棚から飛び出した。
試作機はそれを、「収納未完了」と判断し、さらに強い力で押し込んだ。
技術書は棚の背板を突き破り、壁に穴が開いてしまった。
結局、部屋が滅茶苦茶になってしまった。
「むむむ」
風香はこの部屋を一人で片付ける自信がなく、鳳家からメイドを一人呼んだ。
メイドは三階の風香の部屋に着くと、部屋を二度見した。
そして横を向き、風香に見えないように少し笑ってから片付けを始めた。




