第十三章 最終幕 秘密結社
「秘密結社ARK」
風香は決まった。と思った。
マスクの奥で、優作と庄屋の目が合った。
恥ずかしかったが、やると決めたらやる男たちだった。
庄屋は、黒川付きの幹部候補だった。だから吉村とも面識があった。
「……マスクがあって助かった……のか?」
庄屋はそう思った。
風香は腰を抜かして椅子から落ちた吉村に近づき、
「……お金、必要なんでしょ?」と言った。
吉村はこの不気味な三人を警戒したが、風香の目を見返しながら尋ねた。
「助けてくれるのか?」
風香は、胸を張り、こう告げた。
「ク、ク、ク……助けるですって? 誰がそんな事を言ったのよ」
吉村の顔色が再び青くなった。膝は震えていた。
風香は吉村を見下ろしながらこう告げた。
「……あなた、選びなさい。会社を助けるか、会社の人間を助けるか」
吉村は考えた。そして尋ねた。
「会社のAIと相談してもいいか?」
「絶対に駄目」
風香は即答した。
風香は続けた。
「あなた、社長なんでしょ? この会社、AIが社長なの?」
「あなたが決めるのよ」
吉村は追い詰められた。
だが、会社が残っても、人がいなければ所詮それは箱にすぎないとも理解していた。
吉村は両手をついて、頭を下げた。
「私は人間を助けたい。もし、力を貸していただけるのなら、貸してください」
みっともなく頭を下げているように見えるが、
社員を守ることに決めた大会社の社長の姿だった。
「……吉村さん」
庄屋はマスクを取って吉村を立たせた。
「よく決断してくれました」
「……し、庄屋君」
優作もマスクを取った。
「君はたしか、片桐くん」
「お久しぶりです」
優作も庄屋も、かつてはGLの上層部に近い存在だったため、吉村は知っていた。
彼らが今、暁グループを運営していることも。
「じゃあ、助けてくれるのは、暁グループなのか?」
吉村は庄屋に尋ねた。
庄屋は渋い顔をした。
「誰も助けるとは言っていません。」
庄屋は再び吉村を突き放した。
吉村は少しだけ頭に血が登った。
「しかし、さっき人か、会社か、選ばせたじゃないか」
吉村は声を荒げた。
風香はマスクを外し、吉村を見据えながら言った。
「GLはなくなるの、暁グループが吸収するっていっているのよ」
吉村はようやく、風香の言葉の意味を理解した。
(……だがGLを?)
(……小が大を飲み込むつもりか?)
「……しかし、それほどの資金が暁グループにはあるのか?」
風香はマスクを取ったが、まだ怪人ムーブを続けていた。
「ク、ク、ク……私のこと、知らないの? 鳳風香よ」
「私にはね、代々続く信用があるの。GLとは違うわ」
風香は優作に視線を送った。
優作は吉村に自分の思いを伝えた。
「吉村さん。私は今の世界、一握りの金持ちが、すべてを握り、たった一枚のパンのために、
命を懸ける子供達がいるのは、違うと思っています。GLが今潰れそうなのも目先の利益優先だったからじゃないんですか? そこに本当に人はいたのでしょうか? だから、私は秘密結社を立ち上げました。暁グループもその目的のためのただの道具です」
吉村はそれを聞いて質問した。
即座に反論するつもりだった。
「じゃあ、片桐くんの秘密結社に参加すれば、みんな幸せになるということか?」
優作は首を横に振った。
「いいえ」
吉村の眉が寄った。
「私が私の思いを実現するために動けば損をする人もいるでしょう」
「これは、最初から私のわがままで、私の責任で始めたことです」
「ただ一つ、世界中のガキにパンを配りたい。これだけなんです」
吉村は自分が恥ずかしくなってきた。
そもそも、社長になったのもなりたくてなった訳ではない。
押し上げられたものだ。
(そういえばいつからだろう、責任を押し付け合うようになったのは)
だが社長を受けたのも自分だった。
脳裏には社員の顔が浮かんだ。
吉村は喉を鳴らした。
「……」
「片桐くん。私は間違えていた。利益ばかり見て、その下の人間を見なくなっていた」
「人の上に利益が乗るのを、いつの間にか見失っていた」
「私にも、やり直すチャンスをくれないか?」
「社長としてではない。一人の人間として、いや、怪人として今度こそ私も責任を引き受ける」
「私を秘密結社ARKの怪人にしてくれ」
それが、吉村の答えだった。




