第十二章 第四幕 風香のガレージ
暁商店街。
霧島警備の隣の空き地に暁研究所の建設が始まった。
鳳家のガレージは、風香専用の研究所のようなものだった。
だから、風香個人だけの研究ならば、新しい研究所は必要なかった。
しかし、父、藤三郎の近くにいたいという思いと
ARKに対応する仲間とも、近くがいいと考えたので、
風香はこれでいいと納得した。
瀬戸と凛が、鳳邸に訪ねて来た。
「これ……これが風香さんの家?」
瀬戸が息を呑んだ。
凛が手土産を落としそうになった。
正門の呼び鈴を押そうとすると、その前に
「いらっしゃいませ」そう言って執事が現れた。
「お嬢様は、ガレージで作業をなさっています」
そう言われ、案内された。途中で作業中のメイドを見かけると、
皆気持ちよくお辞儀をしてくれた。
瀬戸は凛に話しかけた。
「場違いなのでは?」
「……」
凛は引き攣った笑顔のまま、何も言わなかった。
屋根付きの渡り廊下を渡り、
巨大な別棟に通された。想像の斜め上のガレージだった。
近づくと勝手にシャッターが上がった。
『ようこそ、風香のガレージへ』
ARKが普通に話しかけて来た。
「……ARK?」
『はい』
『風香は今、端末の前で思考中だから、しばらく待ってあげてください』
「中を見学しても?」
瀬戸が聞いた。
『はい。私ができる限りフォローします』
中に入ると、まず目についたのは、
風香がいつも拠点に乗って来るサイクロンだった。
天井にはロボットアームがいくつも生えていた。
風香は、サイクロンの隣のモニターがたくさんついている、
大きなデスクに座っていてモニターを睨んでいるが、
没頭していて、周りのことが気にならないようだった。
その近くで、何か少しずつ動いていると思ったら、
少し大きめの掃除用ロボットだった。
ただし、音はほとんどしなかった。
「ま、まぁ、普通だよね」
瀬戸は少し安心した。
「ん?あの通信装置みたいなのは何?」
『あれは風香の母に頼まれて作った3D電話装置です。立体的に相手と話しができます』
『立花モーターズにもあるはずですよ』
「そ、そうなんだ」
瀬戸は未来の電話を見ながら思った。
(……もう実用レベルなのか)
その隣の大掛かりな機械を見て、
「これは、3Dプリンタじゃないか」
そう言った。
凛は技術的なことはわからないので、風香の近くの椅子に座らせてもらった。
『この3Dプリンタは風香の開発したもので、私の力を使って、さらに簡単な命令で、
いろいろなものを作ることができます』
『金属から、プラスチックまで、あらゆる物質を加工できます』
「そ、そうなんだ」
瀬戸は同じセリフを二度言った。
瀬戸は隅に置いてあるロボットを指差して、
「あれは、ロボットだよね?」
そうARKに聞いた。
『はい。ただ厳密には違います』
「え?」
『私の体です』
「そ、そうなんだ」
「健太くん、同じセリフが3回目よ」
凛が話しかけた。
その声で、風香が気がついた。
「あら、ごめんなさい。来てたんですね。」
風香は席を立ち、二人と握手した。
「今日は風香さんの発明品について、暁研究所と暁テクノスで、
契約を結んでもらいたくて来ました。」
瀬戸は丁寧に言った。
「あの……、前にも言いましたけど、呼び捨てでいいです。敬語も入りません」
風香は瀬戸にそう言った。
「いや、ね、これだけのものを見ると、ちょっと、ね」
瀬戸は少し苦笑いをした。
「仲間じゃないですか、それとも仲間じゃないんですか?」
風香は寂しそうに言った。
その視線の向こうには、先日のツーリングの写真が飾られていた。
「風香ちゃん。そういうのはいきなり出来るものじゃないのよ」
「少しずつ本当の仲間になりましょう」
凛は少し微笑みながらそう言った。
「少しずつ……」
「はい、わかりました。」
風香はそう言って、契約書にサインをした。
ARKは今までの人間の学習から、
風香もまた、人間を学習するべきだと計算した。
ただし、
ARKは空気を読んでそれを進言しなかった。




