第十章 第八幕 就職
優作は戸惑っていた。
突然ARKの開発者が訪ねてきた。
しかも、立花さんの娘だった。
優作は、里美の方を見た。
里美は軽く頷いた。
「風香さん、本気で我々の仲間になりたいのですか?」
優作は静かに尋ねた。
「もちろん本気です。一度就職活動してみたかったんです」
風香は少し笑いながらそう言った。
予想外の言葉に、優作は少し固まった。
今度は藤三郎を見た。
藤三郎が風香に言った。
「何で暁グループなんだ?」
「お前には就職なんて必要ないだろ?」
風香は、その質問が来ることを予想していた。
「だからこそ、就職して社会を知りたいの」
「お父さんの隣の会社よ」
藤三郎は店の隣と言われて急に声が小さくなった。
モニターの幾何学模様が強く輝いた。
『僕は許しません』
風香はムッとして、
「ARKの許可は必要ない」
と言った。
「じゃあARK命令よ、私を守りなさい。これでいいでしょ?」
『そんな命令なくても、いつも見守っています』
まるで拗ねているようだった。
優作は一呼吸間を置いた。
「ARK」
『はい』
「どうして風香さんの就職に反対なんだ?」
『……』
ARKは答えなかった。答えられなかった。
「ね、だから私はARKと優作さんの近くにいたいの」
「理由を察してくれましたか?」
風香は「ほらね」と言いたげに優作を見た。
「立花さん」
優作は藤三郎を見た。
「ああ」
「風香さんをウチで預かってよろしいでしょうか?」
「……危ないことをさせたらただじゃおかねぇからな」
「……いや、違うな。悪かった。娘をよろしく頼む」
藤三郎は帽子を取って頭を下げた。
優作は里美に目線を送った。
里美は風香に微笑みながら言った。
「風香さん、ではあなたを採用します」
優作は、仕事の手を止めて風香たちのやりとりを見ていた瀬戸へ視線を向けた。
里美は続けた。
「所属は暁テクノスです」
優作は少し間を置いた。
「瀬戸、風香さんを頼む」
瀬戸はテーブルの書類から目を離し、返事をした。
「はい、これからよろしく」
風香も少し笑った。
「はい。よろしくお願いします」
「それから——私のことは呼び捨てで構いません。風香と呼んで下さい」
暁グループに、文字通り新しい風が吹いた。




