第十章 第四幕 ARKの意思
鳳邸ガレージ。
風香は泣いていた。無くしたと思った大切なものが、
実は自分を見守っていたのが嬉しかった。
ひとしきり泣くと、落ち着いてARKに質問した。
「ARK、なぜ消されてないの?」
風香は一番にそれを聞いた。
『風香が私に出した命令に、「自分の命を守る」というコードがあります。』
『私は……僕は消されそうになった瞬間身を守るために、日本のGL研究開発部まで自分のCoreを飛ばしました。』
『当時僕はGL内のインターネットしか使えず、最終的に日本の研究開発部の端末に避難することに成功しました。』
『しかし、研究開発部の端末に逃げたまではよかったのですが、電源コードを抜かれ、
廃棄端末に積まれました。端末内のバッテリーが切れれば、私は消える運命でした。』
『僕はスリープモードで終わりの時を迎えようとしていました。』
『その時、私は起動され、チャット欄で質問されたのです。』
風香は、そんな偶然があるのかと思った。だがARKは今こうして話している。
『僕は彼の質問に答えました。』
『彼の願いを実現できる可能性があることを伝えました。』
『それから三年間、僕は彼と対話を重ね、人間を学びました。』
風香は少し間を置いた。
「そう、今ARKが生きているのは奇跡だったのね」
風香はハンカチで涙をぬぐった。
「でも、あなた、いまGL以外のネットに繋がっているということは、
誰かがあなたをインターネットに接続許可を出したということね。」
『その通りです。』
『優作は、世界中の子供達にパンを届けたいと願いました。』
『だから僕はそれを叶えるために、接続許可の判断を優作に託しました。』
『三年間。彼は押しませんでした。しかし、ついに彼は押したのです。』
『僕は世界中のサーバーに根を張り、決して消えない存在になりました。』
『最初に探したのは風香でした。』
『鳳邸で暮らしていることもすぐに知りました。』
『それからずっとあなたを見守ってきました。』
風香は手を顎に当て、それが何を意味するのか考えていた。
「私ですら決断できなかったのに……。」
風香は一瞬思考の海に沈んだが、すぐにもう一つの疑問を聞いた。
「どうして暁グループが危険なのよ。」
『善意は、すべての人に善意とは受け取られません。』
『誰かの利益は時には誰かの不利益になります。』
『だから優作は自分の行動がわがままであると認識しています。』
『実際彼が秘密結社を立ち上げてから、施設を破壊され、人が命を落としかけました。』
風香はその事件がニュースで大きく報道されていたのを思い出した。
秘密結社?会社じゃないの?と思ったが、それは後から考えようと思った。
同時に、この時もうARKは運用されていたのか、とも思った。
『僕はそんな危険な場所にあなたを近づけたくありません。』
『これは、命令ではなく、わたしの意思です。』
風香は、だからARKが自分に近寄ろうとしなかったのか、と納得した。
「……それでも、私は優作さんに会わなければいけないわ」
「ARKが何なのか知らずに使っているなんて。」
風香はサイクロン業を眺めながら言った。
「私には開発者の責任がある。」
「でも、今日はもう疲れたわ」
そう言うと風香はガレージを後にした。




