第十章 第二幕 立花の娘
暁グループ本社会議室。
「風香さん。どうしてここに?」
赤井が驚いて尋ねた。
「お父さんの店にたずねてきたの。」
「お父さん?」
風香は窓の外に見える立花モーターズを指さした。
「あのお店のおじさんが私のお父さんなの。」
「立花さんが?」優作、庄屋、影山、そして赤井の声が重なった。
「いままで、祖父母と一緒に暮らしていたけど、
最近来てくれないから自分できたの。」
「私が子供の頃に住んでいた頃と雰囲気が変わっていて、驚いています。」
「最後にアメリカから帰って来た時と比べたら、まるで別の街みたい。」
風香は差し出されたコーヒーを飲みながら、会議室を見渡した。
壁にはホワイトボードと大型モニターが並び、
中央には大きな会議テーブルがおかれている。
その一番奥、全員を見渡すことができる席に優作は座っていた。
「あの席、CEOの里美さんの席じゃないんだ……。」
風香はそう思ったが、口には出さなかった。
「昔、ここは喫茶店だったから、今でもこうしてコーヒーが飲めるのは、
ちょっと面白いですね。」風香は少し笑いながら言った。
「そう言えば、サイクロンはどうなったんですか?」
赤井がたずねた。
「それが……今日はいつもと様子が違うんです。」
「途中で拗ねちゃって、走らなくなっちゃって、
ここまで歩いて来たんですよ。」
風香は苦笑いしながら答えた。
「拗ねちゃって?故障でもしたの?もしかして旧車?」
影山が目を輝かせて尋ねて来た。
「いいえ、旧車じゃないです。どちらかと言えば最新式ですね。」
風香は答えた。
「新型でも調子が悪い時は悪いからね」
影山が続けて言った。
風香は首を振りながら、
「そういうことじゃなくて、搭載しているAIがおかしいの。」
そう言った。
「AI?」今度は優作が尋ねてきた。
さっきまで黙って話を聞いていた、一番偉そうな人が質問してきたので、
風香は少し緊張した。「……。」
「風香さんのサイクロンは世界に一つしかないバイクなんです。」
赤井が間に入って話をした。
「彼女のバイクはAIが車体を制御して走る、特別なバイクなんです。」
「初めて彼女のバイクが自走で彼女について来た時は、度肝を抜かれました。」
風香は赤井の説明が、嬉しくもあり、また、少し照れていた。
「そう、我が社のARKみたいなすごいAIなんです。」
赤井が続けた。
「……ARK?」風香の顔色が変わった。
風香が何かを言おうとした瞬間、扉が開いた。
「風香。」藤三郎がはいってきた。
「いつまでここいるつもりだ。」藤三郎は風香に言った。
「立花さん。こんな可愛らしいお嬢さんがいるとは、知らなかったっす。」
影山がそう立花に話しかけた。
「やかましい。」立花が言い放った。
「お前のような奴がいるから、風香をここに、来させたくなかったんだ。」
「もう帰るぞ。」藤三郎は風香の手をとると、強引に連れ帰って行った。
藤三郎の勢いに、誰も口を開かなかった。
拠点は嵐が過ぎたような静けさに包まれていた。




