第九章 第七幕 転倒
サイクロンは、クルーズモードから、スポーツモードに変形した。
車高を調整し、バンク角を上げ、コーナリング性能を飛躍的に高めた。
「……。」赤井は絶句した。
だが、峠道で勝負したいと思っていたので、これはチャンスだった。
赤井はサイクロンとの車間を一気に縮めた。
風香は、後ろからバイクが近づいてきたのに気がついた。
「なに?ちょっと怖いんだけど。」風香はアクセルを上げた。
最初のコーナーで、サイクロンは一気に赤井との距離を広げた。
「な、なんでそんな速度で曲がれる?」赤井は叫んだ。
「早すぎる。」
直線でも気を抜けば置いていかれる。
赤井はだんだん焦ってきた。
『風香、僕の計算だと後ろのバイク、もうすぐコケます。』
「え?」風香は戸惑った。
次のコーナーを抜けた時、
赤井は曲がりきれず、スリップして、コケてしまった。
風香はサイクロンから降りて、赤井のところまで走ってきた。
サイクロンは自走して風香の後をついてきて、風香の後ろで止まった。
「大丈夫ですか?」風香が尋ねた。
「……。」赤井は混乱していた。
不思議なことが多過ぎたから。
「な、だ、大丈夫……あの、バイク……ついて来ている。」変な日本語になった。
「あぁ、私のバイク自分で走れるんです。」
「それより、怪我はないですか……えっ、あなた、三代目さんじゃないですか」
風香も別の意味で驚いた。
「三代目……になる男だ」赤井は苦笑いしながら答えた。
「それより、あのバイクは一体なんなんだ?」
「今はそれより、ご自分の怪我を心配してください。」
風香は少し呆れて言った。
「本当に大丈夫だ、怪我はない。」
「バイクは……だめだな、仲間に来てもらう。」
風香は一瞬お父さんを呼ぼうかと思ったが、
きっと怒るので黙っていることにした。
「そういえば、君はパーキングで絡まれていた子だね」
「はい。あの時は、ありがとうございました。」
「私のサイクロン。あなたをリスペクトして、赤くしました。」
「……。」赤井は何も言えなくなった。
「ゴホン。」赤井は咳払いをした。
「サイクロン?聞いたこともないバイクだ。」
「これは家族で作った世界で一台しかないバイクです。」
風香は少し照れながら言った。
「AIで制御しています。誰でも安全に運転できます。」
「でも、サイクロンに乗れるのは私だけです。」
風香はイタズラっぽくウインクをした。
「つまり、コケないバイクということ?」
赤井は驚いて尋ねた。
「そのとおりです。」風香は笑った。
赤井はサイクロンを見つめた。
サイクロンはなぜか少し照れているように見えた。




