第九章 第五幕 真紅のバイク
風香が家族のバイクを作ると宣言してから数ヶ月後。
サイクロン業は最後の調整に入っていた。
風香がパソコンの前で固まっていた。
「……おかしい。」
「誰かがジャイロの計算の矛盾を指摘している。」
「でも、……通信記録がない。」
「しかも…これ、計算上は成立している。でも……。」
「私?寝ぼけて計算したのかな?」
藤三郎が覗きこんできた。
「どうした?」
「解析プログラムが計算の矛盾を検出しているの。」
「でも、こんな計算、仮想世界か、実際に走らないとデータが取れないわ。」
「う〜ん。一応入れてみる。」
風香はジャイロに提案された数値を入力した。
「よし、実際に乗って確かめる。」
風香はあまり目立ちたくなかったので、夜中の峠を走ることにした。
峠につくと、アクセルを少しずつ上げていく。
気持ちいいエンジンの鼓動を感じる。
問題のバンク角だ、コーナーでバイクを寝かせる。
「ダメ、怖い。」ぼそっと声が出た。
その時アルファが反応した。
『……大丈夫です。僕がついています。』
バイクがしゃべった。
もっとも、そう作ったのだが。
「喋れるようになったのね」風香は嬉しそうに言った。
『限界を超えないように制御します。安心してください。』
そう言った。
「頼もしいわ、じゃあお願いね。」
風香はアクセルを上げてコーナーに突っ込んだ。
本当は少し怖かった。
しかし、アルファはアクセルとブレーキを最適に制御した。
風香は驚くほど自然にコーナーを曲がり切った。
『これ以上は危険と判断したら、僕が「危険です」と伝えます。』
アルファは続けた。
『それを超えなければ安全に旋回できます。』
それから風香は楽しくなってきて、峠を何往復もしてしまった。
それを見ていたライダーは、峠に新しい伝説が生まれたことを直感した。
いつしか、真紅の風香のサイクロン業は、
赤いゴーストと呼ばれるようになった。
風香はそのことを知らない。
ある日、赤井が峠に行くと、
赤いゴーストと呼ばれるバイクが峠を走っていた。
「あれが、ゴースト…。」
赤井はヘルメットを被り、バイクを走らせた。
直線で詰める。
だが、
コーナーで離される。
「ダメだ、追いつけない……。」
赤井はアクセルを戻した。
ただ、夜の闇へ消えていく真紅のテールランプを見つめていた。
「いったい誰なんだ……。」
赤井は再びゴーストに挑むことを誓った。




