第九章 第一幕 サービスエリア
風香は、サイクロンのテスト走行を兼ねて、各地をツーリングするようになった。
雨の日、濡れるのが嫌だった風香は、
走行風を制御し、ダクトから風をだして空気の膜がライダーを包み込む、
ブロウプロテクトシステムを開発した。
その日はたまたま雨だった。
サービスエリアのバイク専用駐車場には屋根があった。
ライダーたちはみんなカッパを脱ぎながら雨をはらい、
ずぶ濡れになったジャケットを見てため息をついている。
そんな中、
風香は全く濡れていなかった。
あまりにも対照的なその姿に
ライダーたちの視線が集まった。
風香は目立つことをあまり望んでいなかった。
しまったと思った。
手洗いに行くため、少しバイクから離れた。
帰ってくると、知らない男が、風香のバイクに跨っていた。
まるで自分のバイクのようにVサインをし、
連れの男が記念写真を撮っていた。
そのバイクは、風香と父が二人で作った、
世界で一つだけのバイクだった。
風香の顔はみるみる赤くなっていった。
「……降りてください。」
「私の大切なバイクなんです。」
風香は少し震えていた。
相手は一瞬ビクッとした。
だが、
声の主が女の子と知ると、横柄な態度に変わった。
「なんだよ、ちょっと位いいじゃねぇか。」
「ケチくさいな。」
そう言った。
パーキングにはまだ雨が降り続いていた。
揉めていると、赤いバイクの持ち主がゆっくりと近づいてきた。
「君ら、彼女が嫌がっているのがわからないのか?」
男は優しく彼らに話しかけた。
「なんだ?お前には関係ないだろ。」
バイクに跨っていた男は降りると、
連れと二人で赤いバイクの男を取り囲むように立った。
すると、赤いバイクの男の後ろに一人、また一人とバイク乗りたちが集まってきた。
「な、なんだ、俺たちをどうするつもりだ?」
二人の男は震えていた。
「なにも、謝ってさっさと消えろ。」
赤いバイクの男はそう言った。
二人の男は風香に頭を下げて消えていった。
「あの……暴走族さんですか?」
「違う。俺らはただの走り屋だ。」
「走り屋?レーサーですか?」
「……。」
「そんな立派なもんじゃない。」
「まぁ、いい、今度から気をつけなよ」
男は少し笑いながら言った。
「あの、お名前は?」
「赤井って言う。ロードキングの三代目になる男だ。」
「……三代目、」
「たすけてくれて、どうもありがとうございました。」
風香は、自分の知らない世界があることに気がついた。




