第八章 第二十三幕 岐路
葬式から数日後
藤三郎は立花モーターズのシャッターを開けた。
修理仕掛けのバイクが並んでいる。
毎日手入れをしていたZ1にも、薄く埃が積もっていた。
暁商店街から、一台のシニアカーに乗ったお年寄りが
やってきた。
「このお店、これからどうなるんだい。」
と聞かれた。
「……。」
藤三郎は答えられなかった。
「困ったねぇ。これからは、どこに持っていけばいいんだろう。」
お年寄りはシニアカーを見つめた。
「直してくれる人がいなくなってしまったね。」
藤三郎は自分の目の届かないところで、
親父が修理をしていたんだなと、あらためて思った。
しばらくすると、バイクのエンジン音が聞こえてきた。
「藤三郎、どうだ。店を開けることにしたか。」
常連客がまた、いつものように、やってきた。
「親父さんのことは、残念だった。」
「……でもよ。」
「お前は店を続けてくれるんだよな?」
そう聞かれた。
藤三郎は悩んでいた。
家族と一緒にいたい。
そのためには、アメリカに行くことになる。
でも、
頭から離れないのは、親父の最後の言葉だった。
「人との縁は壊すな。」
その言葉が心の中で、何度も繰り返されていた。
数日がたった。
藤三郎は答えを出せないまま、毎日店を開けていた。
まだ悩んでいた。選べなかった。
今日は、店に風香と、静香が来ていた。
風香と一緒にいたい。
アメリカでは言葉が通じないし、
仕事はできないかもしれない。
でも、静香となら問題ないだろう。
「アメリカに、行こうか。」
静香に言った。
「……それは、貴方がダメになるわ。」
「……そんなのは、貴方らしい生き方じゃないから。」
「私は、藤三郎に惚れたのよ。」
静香は少し照れながらそう言った。
「ふ、ふふ……はははは!」
藤三郎は笑った。
これで、立たなきゃ漢が廃る。
藤三郎は決めた。
俺は、立花モーターズをここで守る。
暁商店街から、綺麗な夕陽が見えていた。




