第八章 第二十二幕 親父
藤三郎一家は、
藤三郎の父が病院に運ばれたと連絡を受け、
3人で日本に帰ってくることになった。
藤三郎が一人でアメリカへ渡る時は、
右も左も分からず苦労の連続だった。
だが今回は違う。
静香が全ての手続きを済ませてくれたため、
一家は慌ただしく日本へ向かった。
病院に着くと、バイク仲間たちが心配そうに
藤三郎たちを迎えた。
「容態はどうなんだ?」
「……医者に聞け。」
「店に行ったら、親父さんが倒れていた。」
「驚いて、救急車を呼んだ。」
常連客が答えた。
「助かった。ありがとう。」
藤三郎は礼を言って、医者に会いに行った。
医者はレントゲン写真をみながら説明した。
「年齢の影響もありますが、全身の機能がかなり低下しています。」
「今後は、できるだけ一人にしない方がいいでしょう。」
そう答えた。
藤三郎は、親父がまだまだ元気だと思っていた。
だが、
一人にしたのは間違いだったのかもしれない。
それに、
待合室では、
常連たちが誰も帰ろうとしなかった。
こんなにも親父を慕ってくれていたのか。
知らなかった。
「……俺は、知らないことだらけだ。」
病室では親父が寝ていた。
親父を見て思った。
いつの間にか、
こんなに小さくなっていたのか。
風香と静香も、黙って親父を見ていた。
その日、風香と静香には鳳家に戻ってもらい、
藤三郎は一人で親父のそばにいた。
親父が目を覚ました。
「帰ったのか。」
「ああ、ここは病院だ。親父は倒れたんだ。」
「……そうか。」
「藤三郎……。」
「なんだ、親父。」
「お前が三重を出る時、俺は反対しなかった。」
「……。」
「もう、店はお前のものだからな。」
藤三郎は親父の手を見つめた。
職人の手だ。
傷だらけで、
節くれだった手。
子供の時は、自分よりも大きな手だった。
「すまない、任せてしまった。」
「あやまらなくてもいい。」
「……。」
「だが、今度はどうするつもりだ?」
「お前の人生はお前のものだ、わしは縛りつけたくない。」
「だが、人との縁は壊すな。」
「うん。……それだけだ。」
親父はそれだけ言うと眠りについた。
それから数日後
藤三郎の父は、
眠るように息を引き取った。
人生を生き切った顔だった。




