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幕間:時計の止まった三日間(ザ・ホロウ・キッチン)

■ 欠勤一日目:狂い始めた歯車

その朝、キッチンには「無音」

という名の違和感が漂っていた。

いつもなら開店三十分前には終わっているはずの、

フライヤーの温度チェックと仕込み。

それが、まだ終わっていない。

「……まだ来ていない」

それから、独り言のように続けた。

「遅刻なんて珍しいじゃない」

里美は、まだ軽く考えていた。

だがラッシュが始まると、

「異常」は数字になって現れた。

ポテトの提供が三十秒遅れる。

レジの列が、一人分だけ長くなる。

ゴミ箱には、

失敗したバンズがいつもより多く積まれていく。

カウンターの端でコーヒーを飲む庄屋は、

そのすべてを黙って見ていた。

優作という「潤滑油」を失ったキッチンは、

ゆっくりと軋み始めていた。

――――――

■ 欠勤二日目:失われたリズム

二日目。優作のスマホは

「電波の届かない場所にあります」

と無機質な音声を繰り返すだけだった。

ロス率は、前日比でさらに四パーセント上昇。

スタッフの動線は重なり、ぶつかり、

バックヤードには里美の怒声が響く。

庄屋はノートPCを開いていた。

だが見ているのは売上ではない。

画面に表示されているのは、

作業効率の減衰グラフだった。

(……やっぱりな)

庄屋は目を細める。

(この店の「魔法」はシステムじゃない。

あの男一人が、全部を見ていた)

優作の不在は、もはや単なる「病欠」ではなかった。

ギガ・リンクの清算人が動いたという社内リーク。

目の前で進行する現場の崩壊。点と点が、

ゆっくりと線になり始めていた。

――――――

■ 欠勤三日目:決断の沈黙

三日目。

店内の空気は、限界に達していた。

里美は、

明らかに焼きすぎたパティをゴミ箱に投げ捨てる。

そして震える手で、エプロンを外した。

「……店長代理、どこ行くんですか?」

新人の声に、里美は答えなかった。

そのまま、店を出る。

庄屋はその背中を見送った。

一秒。

それからノートPCを開いた。

(……行くなら、俺は俺の仕事をしておくか)

研修用の管理者IDでログインする。

向かった先は機密フォルダだった。

黒塗りのインシデントレポート。

見慣れた画面だった。だがその隣に、

削除済みフォルダがあることに、

今日初めて気がついた。

本来なら空のはずだった。

クリックした。

空ではなかった。

誰かが——おそらく手順を知らない誰かが

——「削除」と「完全削除」を混同していた。

ゴミ箱の中に、コピーが一部、残っていた。

黒塗りのない、元のファイルが。

庄屋はそれを、三回読んだ。

コーヒーが、冷めていた。

ノートPCを閉じる。立ち上がる。

ブリーフケースにファイルを入れる。

住所は、もう確認済みだった。


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