第八章 十七幕 ハーレー
朝
疲れているはずなのに、
藤三郎は早くに目が覚めた。
隣では静香が眠そうに一言、
「もう起きたの?」と言った。
「ちょっと散歩してくる。」
静香は「いってらっしゃい」とだけ言うと、
再び布団に潜り込んだ。
藤三郎は庭に出た。
—庭といっても広すぎるのだが。
朝露に濡れた芝生の向こう側に
一棟の大きなガレージが建っている。
「……ガレージ。」
「当たり前だが、俺の店よりでかいな。」
気になって近づく。
扉を開け、
中に入ってみると、
高級車が並ぶ中、
一台の大型バイクだけが、
埃をかぶったまま、
すみのほうに寄せられ止められていた。
「スポスタ……いや、パパさんか……。」
藤三郎はスポーツスター883に気付き、
吸い寄せられるように近づいた。
横を見ると、傷がある。
「……立ちゴケじゃないな。」
「この家にあるということは……。」
これ、お義父さんのバイクか……。
そう思った。
だから静香がバイクに乗ることを、
反対していたのかもしれない。
藤三郎は朝食の時間になったので、
屋敷に戻ることにした。
ダイニングテーブルには、静香が座っていた。
「おかえり、どうだった?」
「ガレージにハーレーが置いてあった。」
「そうね。でもエンジンは掛からないわ。」
静香はそう答えた。
「風香は?」
藤三郎は静香に尋ねた。
「まだ寝てると思う。」
もう、七時を過ぎている。
「こんな時間までまだ寝てちゃ駄目だろ。」
藤三郎は席を立ち、風香の部屋に再び上がって行った。
「ちょっと待って。」
静香は思わず声を上げた。
だが、
その声は、
もう藤三郎に届かなかった。
風香はまだ気持ちよさそうに眠っていた。




