第八章 第十四幕 空港
藤三郎は人の流れに従って、
入国審査の列に並んだ。
アメリカの係員から質問を受けたが、
何を言っているのかは分からない。
ここではじめて、静香からもらった手紙を
係員に渡した。
“He doesn’t speak English.”
「この人は英語が話せません。」
“He wants to meet his family in Boston.”
「彼はボストンにいる家族に会いに来ました。」
“He will stay at this address.”
「滞在先はこの住所です。」
と、英語で書かれていた。
係員は藤三郎の顔を見て、
もう一度手紙を見た。
「OK.」
「Welcome to America.」
そう言ってスタンプを押した。
藤三郎は何を言われたのかは分からなかった。
だが係員は笑顔だった。
だから、
笑顔で返して通り抜けた。
多分大丈夫なはずだと思った。
「間違っていたら、笑ってないだろ」
そう自分に言い聞かせた。
バゲージ・クレームで、
自分の荷物が回ってきたので、受け取った。
税関で、機内で受け取った書類を提出した。
そして、出口のドア付近で、知った顔を見た。
静香が迎えに来ていた。
ほっとした。だがそれは見せられない。
長い旅路だった。
静香と一緒に車に向かった。
運転手が礼をして、待っていた。
その後ろには、黒塗りの高級車が止まっていた。
「……これに乗るのか?」
「そうよ。」
静香は笑った。
藤三郎はそれ以上何も言えなかった。
ただ、周りの視線のせいで、
落ち着かなかった。
アメリカの道は、信じられないくらい広かった。
そして、おどろいたことに、日本ほど道が整っていなかった。
アメリカの空気は日本よりもサラッとしていた。
だが、まぁ、そんなことは藤三郎にとって、今は些細なことだった。
「……やっとだ。」
藤三郎は半年ぶりに娘に会えると思うと、
自然に口角が上がった。




