第八章第六幕 土砂降り
静香は店から飛び出した。
なぜあんなことを言ったのだろう。
何年も気持ちを隠してきたはずなのに。
気持ちを抑えきれなかった。
「どうして私……。」
大雨が降る中、飛び出してきた。
受け入れてもらう自信があったのかもしれない。
だけど……。
藤三郎が飛び出してきた。
恥ずかしくて逃げた。
追いつかれて手を握られた。
あばれたら、
藤三郎に抱きしめられた。
……幸せだった。
二人はバイク屋に戻った。
静香はずっと下を向いていた。
藤三郎は新品の自分の服を差し出して、
「風邪をひくから、着替えて来い」とだけ言った。
「あなたも風邪をひくから……」というと、
「俺も後で着替えるから。」
と言われた。
着替えて、店に戻ると、
暖かい缶コーヒーを出された。
その日
土砂降りの雨だった。
立花モーターズの常連客もこんな日は来ない。
親父も商店街の連中と旅行に行っていない。
一人で留守を守っていた。
四気筒の聞き慣れたエンジン音がした。
「ん?」
東京の変わり者のお嬢さんだった。
彼女は、むかし助けた恩返しか、
うちでバイクを買ってくれた常連だ。
時々わざわざここまでバイクを見せにくる。
「本当にバイクに乗るのが好きなんだな。」
藤三郎は少し嬉しかった。
しかし、
今日は大雨の日だ。
とりあえず店にバイクと彼女をいれて、タオルを渡した。
少しの間があった。
静香はまっすぐに俺の目を見て、
「好きです。」
と言った。
驚いた。
でも、
彼女は鳳家のお嬢様だ。
でも俺は
「ただのバイク屋だぞ」
そう言った。
彼女は俺の頬を叩いて店を飛び出した。
大雨の中、一人で。
俺は彼女を追いかけた。
やっと、捕まえたと思ったら、暴れたので、
ぎゅっと抱きしめた。おとなしくなった。
やれやれ。
店に彼女を連れて帰った。
とにかく今のままでは風邪をひく。
買ったばかりだが、自分の服を着せることにした。
じぶんも素早く着替えて、
店の前の自動販売機で買った缶コーヒーを渡した。
外では、
雨が激しく降り続いていた。




